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2007年11月12日
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テーマ: お勧めの本(7885)
カテゴリ: 読書

大鴉の啼く冬
処刑の方程式

以前、最近のミステリは読者による「謎解き」を重要視しないと書きました。それを否定するつもりはないのですが、もちろん例外もあります。ただしその「例外」も、古典ミステリの基準からすれば、おそらく随分と「例外的」なのですが。

今年評判になったらしい(そしておそらくは年末のベストにも必ずや入ってくるであろう)『大鴉の啼く冬』は、スコットランドのシェトランド諸島の1つの島が舞台になっています。イギリス本島からはもとより、近くの島同士ですら相当に行き来の不便な島における殺人は、実のところある種の密室殺人です。もちろん密室殺人にお馴染みのトリックなどは問題にならないのですが、例えばある屋敷の中の一室の殺人がそうであるように、容疑者は必然的に絞り込まれるわけです。事件当時にその島にいた人は限定されていて、他の容疑者がふらっと出てくる可能性はほぼ皆無ですから。

読みながら、ふと、しばらく前に読んだヴァル・マグダーミドの『処刑の方程式』を思い出しました。これは島ではないですが、イギリスの中のある隔絶されたコミュニティを舞台にした作品。そこでは他所者が入ってくるとすぐさま村中に知れ渡るという、ひどく閉じたコミュニティで、いわば陸の孤島。そしてそこに住む人間は、上記の島に住む人間よりも遥かに少ないのです。もちろん陸の孤島とはいえ、他の場所から犯人がやってくる可能性はわずかながらありますが、読者はどうしたって、そこの住人の誰が犯人なのだろうかと考える訳です。

ネタばらしはしませんが、どちらのミステリも、後半以降に突然新たな容疑者が出現するようなことはありません。その意味ではひどく「古典的」であり、実のところ、プロット上のトリック(つまり誰が犯人かという設定)も、非常に「古典的」です。もちろんそれを大胆な形でアレンジしていますし、またそのアレンジの仕方が非常に「現代的」であるところに、2つのミステリの醍醐味があるのですが、こういうささやかな「古典」への「オマージュ」のようなものを読むのもなかなかいいものです。





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最終更新日  2007年11月12日 13時26分20秒
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