風に恋して ~自由人への応援歌~

風に恋して ~自由人への応援歌~

夜明け前 2章


平成7年9月11日

 9日、10日と、自覚症状が強くなったようで、やっと病院へ行く気になってくれた。一人では心細いらしい。「男なんて、弱い動物なんだ。」とぽつり。覚悟していた通り、即日入院。浩さんは、少し楽観的に考えているようだが、私は嫌な予感を振り払う事ができない。「山手のお母さんに連絡する?」「いや、しないでいいよ。最悪の事態になった時でいいよ。」
「光の手」、読み終わる。最近は瞑想中に7つのチャクラ強化のため、第一チャクラから順番に、赤、橙、黄、緑、青、藍、白、と意識しているからだろうか、眠る時、目を閉じると、七色の星が視野全体に広がり、キラキラと瞬き、美しい。

平成7年9月14日

腹水が抜けないばかりでなく、頭痛、発熱のため、浩さんの心は苛立ち、不安、恐怖で波立っている。担当医からは、何の説明もない。看護婦に頼んで、医師との面談時間を取ってもらう。医師に会った途端、立て続けに4度も「覚悟しておいて下さい。」と言われ、それから、吐き捨てるように、「肝硬変になっていて、酒を飲み続ければどうなるか、本人は知っている筈だ。医者はどうにもできません。癌になっていなかったとしても、胃の周りの静脈が、いつ破れるかわかりません。いつ破れてもおかしくない状態です。今日、起きるかもしれないし、明日かもしれません。その時は死にます。たとえ最良の道を進めたとしても、3ヶ月の入院は覚悟して下さい。また、治るなんて考えないでください。今より悪くならないようにするだけです。肝硬変を治す薬なんてありません。」怒っているかのよう。若狭さんが言っていた言葉を思い出す。「医者はね、患者が嫌いなんだよ。」一応、検査データのコピーをもらった。本を買って調べてみよう。わかっている。浩さんも、私も、わかっている。前回の入院時も、覚悟してくれと言われたが、今回は、医師から言われるまでもなく、覚悟している。彼の顔つき、皮膚の変化が、否応なく事態の深刻さを教えてくれる。覚悟はしていても、一人になった時、涙が出る。

9月9日、雨宮さんに私の潜在能を通して、浩さんの身体状況を見てもらった時、「残念ですが、ご主人は僕の力では治りません。過去生で殺人のような大きなカルマを背負っています。魔神クラスのとてつもなく大きな呪い、悪霊が10人は憑いています。ご主人の霊性ステージがもう少し高ければ治せますが、ステージがまだ低いところにいらっしゃいます。肉体的に救う事ができないとしても、霊性を救う事はできます。一緒にやりましょう。このままの魂で死ぬと、霊界にさえ入れない可能性があります。別の世界に入ってしまいます。せめて、魂の浄化だけはしてあげましょう。」「貴方の霊性は、さらに上がっていますね。以前、僕が憑けてあげた5人の神様は、それ以上のランクの守護神が憑いたので、既に去っています。貴方は過去生で随分がんばってきたようですね。すごいパワーがある。必ず貴方は能力を開花できるでしょう。今、高次元への進化のため、身体の変化がどんどん進んでいますので、小さなトラブル、例えば、物を落とす、階段から落ちる、転ぶなどの事が続きますので、注意して下さい。」

医師との面談後、浩さんの視線が痛い。私の表情から、彼は答えを読み取ろうとしている。貴方は気が弱い。以前、二人で話し合ったことがある。私が不治の病いにかかった時は、絶対に本当のことを伝えて欲しい。病いの正体を知らずに、ある日突然逝くことほど、辛いことはない。助からないとしても、私は病いと正面から向き合い、自分なりの人生の終焉を納得して逝きたいし、生きてきた人生の全てを肯定し、感謝の心で旅立ちたい。貴方の場合はどうすると聞いた時、「その時になってみなければわからないよ。俺は君ほど強くないよ。」と言った夫の言葉を心の中で反芻する。
「光の手」に書いてあったチャクラのキレート療法をやってみた。とても気持ちが良いと言う。特に最後の仕上げとして、身体から50~60cm上に、両掌を下向きに掲げ、頭から爪先までオーラフィールドを形作る気持ちで掌を動かしている時、彼の胸の上で、両掌の中心部に他の場所とは異なる感覚があった。浩さんの身体から放射される熱感が、胸の上では更に強くなるので、しばらく胸の上に掌を止め、神の生命エネルギーがより多く流れ込むよう意識した。「神よ、私の掌を通じて貴方の生命エネルギーを浩さんに流します。私は神の意志に従います。私の心と魂は、貴方に委ねます。私は神の存在を信じます。神が私の掌を通して、浩さんを癒していくのを信じます。」心に念じながら、初めてのチャクラキレート療法とオーラヒーリングを自己流ながらやってみた。後で「どうだった?何か感じられた?」と聞いてみると、私の両掌が頭からみぞおち辺りに来た時、その辺一帯にホワッと温かさが広がり、とても良い気持ちになったと言う。

平成7年9月15日

敬老の日。品川へ出かける。「波動のシルバー革命」の講演会。塩谷式「正心調息法」を教わる。現在、
93歳の塩谷先生の話に涙が出た。これだ!これなら浩さんも、自らの身体のために実行できるし、私も毎日の瞑想時、浩さんが治る想念を入れて実行できる。この方法で浩さんの死神を退散させられるという確信に近いものを感じた。信じよう、自分の内なる神性を。私はヒーラーになってみせる。浩さんの生命を救ってみせる。医師が見放し、雨宮さんも無理だと言った彼の生命。絶対に治してみせる。ありがとうございます。塩谷先生、やってみます。やり抜いてみます。今まであったどの人に対するより、今日の、この強烈な波動は何だろう。自然に涙が出てきた。本当にありがとうございます。理由は分かりませんが、私は「できる」ことを感じました。塩谷先生の93年にわたる生命と、研究、実践活動があればこその感動です。先生との出逢いを、神に深く感謝します。何度でも伝えたい、ありがとうの言葉。心が震えてハイになっている自分を感じます。家に帰って、早速、知恵さん、理恵さんに、学んだばかりの正心調息法の意味と方法を教える。まるで酔っ払っているかのように、私の声は大きく、ウキウキしています。エンドルフィンが分泌されているのでしょうか?講習会場でやった通り、帰りの電車の中でも、ワンクール実施。浩さんが治ったという想念と、その至上の喜びをイメージし続けています。やり抜きます。浩さんのヒーラーになってみせます。そして、浩さんを今までの仕事から解放させてあげます。彼が心より「やりたい」と思うことを、それがどんなことであってもやらせてあげます。彼の魂が至福体験できるようにしてあげることが、私の役割なのだと、今日、心の奥深い部分で知りました。ありがとうございます。

平成7年9月21日

彼の血液検査の結果は冷酷そのもの。GOT259(基準値10~40)GPT98(基準値4~50)LDH593(基準値290~540)ALP598(基準値110~350)ガンマーGTP402(基準値80以下)。浩さんの体調はサイコロの目のようにクルクル変る。19日はとても上機嫌で調子がよさそうだった。喫煙所へ行く廊下で私の肩に手を回し、照れていた。便がやっと止まったということで安堵したのだろう。ところが、20日は頭痛と微熱で不機嫌。心なし、彼の白目が黄色っぽく感じた。黄疸だろうかとの思いを打ち消してみたが、今日ははっきりと黄疸だとわかる。熱が38度に上がり、肝臓が痛み始めている様子。やっと食事を取れるようになった矢先だったのに、今日は何も受け付けない。
「医師から胆管炎になっているようだと言われた。」と報告を受ける。医師に会う。「はっきりとしてはいないが、おそらく癌です。それも、癌の部分がかなり大きい。」「手術をする事になりますか?」「いや、もう少し時間をください。もう少し調べてから結論を出します。」「主人から胆管炎らしいと言われましたが…。」「…ご主人には何も言わないでください。いいですね。言ってはダメですよ!」最初感じた不吉な予感、このまま家に帰れないという思いが顔を持ち上げてくる。黄疸、昏睡……。最悪のシナリオが消しても消しても現われてくる。そんな筈はない。私の思い過ごしだ。彼は救われる。救ってみせる。何度も自分の心に訴えかける。彼は回復して、仕事を辞め、好きな生き方をさせてあげる。心よりお互いを理解し合える生活をする。生活費は私がケアーする。そんなイメージを、私と浩さん両方の潜在意識へ植え込む努力をしてきたが、悪魔のシナリオは嘲笑うかのように、強引に私の意識に忍び込んでくる。遠くないその日が、確実に近づいているのを私の身体がキャッチしてしまう。手術は行われないだろう。なぜか私にはわかる。考えるのを止めよう。たとえ、どんなに悪魔のシナリオが現われようとも、私はイメージを重ねていこう。
クロ(娘が拾ってきた猫)が約10日ぶりで、今日帰ってきた。3日間連続でクロが帰ってくる夢を見た。そして、そのとおりになった。

平成7年9月22日

今日も38度の熱で肩の筋肉がパンパンに張り、左手が吊ったらしい。夕方5時半頃、病室へ入っていくと、お手伝いの人から「お宅の旦那、今日、脂汗を出して大変だったんだよ。」と伝えられる。認めたくない状況が、ジワジワとその輪を縮めて迫ってくる。今にも牙をむき出して、浩さんの生命を喰いつくしにやってくるのでは、との胸騒ぎから、私は病院へ出向いたのだ。今日は来れないからと伝えてあったので、浩さん、私の姿を見て驚いている。まるで小学校から帰ってきたやんちゃ坊主が、その日一日、学校であった出来事を一気に母親に話すように、今日の発熱との闘いの一部始終を話し続ける。「なぜ、熱が出るのか教えてくれないから、不安になるんだ。手が吊るのは肝臓が悪化してるからだ。」と訴える。そして、すがる目……。答えられない質問に、私は吊ったというその左手のマッサージをすることで、その視線と質問から逃げる。

夕食は、家から持ってきたとろろのみで終る。洗面器に湯を入れ、自然塩を溶かし、彼の両足をその中に浸ける。足裏全体をふやかし、軽石で硬くなった角質を取り去る。丹念に足裏全体を塩でマッサージする。足の裏には全ての臓器のツボがある。特に肝臓の反射面に塩をたっぷり擦り込む。彼の額から汗が滲み出る。彼の質問は恐いけれど、彼の姿を見ないのはもっと恐い。一日一日が崖っぷち。目を離すと、奈落の底へ落ちて行きそうで不安。どんなに心で、絶対に大丈夫、と繰り返してみても、私の身体は危機を知っている。断末魔の叫びが聞こえてくる。どうしても叶わぬ願いなら、せめて彼を苦しめないで欲しいと強く願う。癌の痛みは耐えられない激痛であると本にも書かれているし、話しにも聞いている。その業火に向かって、一日一日、彼が進んでいる気がして、昨夜、眠ることができなかった。その時、私はいかなる道を選ぶべきか。不安は、次なる大きな不安を生むだけだから、今日だけを見つめようと、虚しい言葉を一人、胸に刻む。真実は、今、この瞬間だけ。だから、今を大切に生きよう。人は誰でもいずれ死ぬ。早いか、遅いかだけのこと。私にもその日は確実にやってくる。死は、むしろ誕生だと書いてあった。祝福すべき本当の人生に戻る誕生の日。苦しみのない、至福に入る旅立ちと書かれている。私は、そのことを頭では信じ始めている。いや、信じようと決めている。それでも、せめて後5年、待ってもらえませんかと切なく神に語りかける。

平成7年9月24日

浩さんが入院してから、この所ずっと不思議な夢を見続けている。最初の夢は、どうやら私自身の浄化のようだった。象の鼻が、滑り台のような形で目の前に現われて、誕生以来、出会ってきた多くの人達が、その鼻先の上に一人ずつ座る。その人達一人一人に、私は深く頭を下げ、これまでの非礼を詫びる。「本当に、申し訳ありません。どうぞ、お許し下さい。」私の言葉が終ると、象の鼻が高々と掲げられ、その人の身体は細かい粒子に分解され、消えていき、次の人の身体が象の鼻に座る。同じ事が次々と繰り返されていき、目が覚めた。
次に見た夢はヒーリングのトレーニングを受けている。ヒーリング手法の一つ一つは覚えていないが、ヒーラーになるための授業を受けていた。
そして、その後見た夢は、ほこり臭いボロボロの長屋で、私は懸命に誰かのヒーリングをしている。ヒーリングに集中しようとするのだが、邪魔が次々に入ってきて集中できない。私のエネルギーが、どんどん消耗していく。「お願い、誰か助けて!」救いを求める。すると、導師が現われ、私の背後からエネルギーを送ってくれる。ありがとうございます。心から、姿は見えないその導師に感謝して、私はヒーリングを続行する。

今日(24日)、久しぶりに夢日記を清書していてドキッとした。9月13日に見た夢が、今日の出来事とオーバーラップしている。夢記録はぼんやりとした頭で、夢遊病者のようにめちゃめちゃの走り書き。後から読んでみても、自分の書いた文字なのに、読めない箇所もあるくらいの乱雑さだし、書いた端から忘れていく。何日分か溜まったら清書していた。
浩さんの病いは日を追って悪化していく。朝夕の瞑想時、彼の治癒を祈る。チャクラヒーリングキレート療法の真似事。本当に効果があるのかという焦り。でも、やらないではいられない。病院は、古く、狭く、騒々しい。前回の入院時は、静かだし、清潔感のある病院だった。個室に入ってもらったのだけど、今回はとても経済的なゆとりがなく、大部屋で我慢してもらっている。前回は個室入院で、一ヶ月の費用100万円を支払ったが、今の私にはその費用に耐える力がない。「ごめんね、浩さん。」と心で詫びる。それにしても、空気が澱んでいるし、色彩が暗い、部屋が狭い、患者同士の諍いが絶えない、看護婦さん達のレベルも低い。病気と闘う前に、この騒々しい環境に疲れ果ててしまいそう。「せめて、この環境ストレスを、何とか解決してあげることはできないのか。」と、口にできない悲しみを神に託す。今日も、相変わらずの騒々しさで、ヒーリングに集中するのに時間がかかる。

洗面器に作った塩湯で足浴。その後、足裏へ塩の擦り込みマッサージ。そして、チャクラヒーリング、キレート療法、オーラヒーリング、祈りの順でやっていく。スタートして20分~30分たった頃から、彼は気持ちの良い寝息をたて始め、鼾まで聞こえ始める。眠っている。それまで、苦しそうに歪んでいた浩さんの顔が、緩んでいる。目を閉じているから、私には見えていないが、熟睡しているのが、彼の呼吸音でわかる。彼の肝臓の上、30cm位の所に両掌をかざし、私の全チャクラから掌を通して、宇宙の無限なる生命エネルギーを注ぎこみ、私と浩さんのオーラが合体し、大きく黄金色に輝く光景をイメージする。私の掌は、下から突き上げてくる熱感と、痛感で疼いている。一連のヒーリングを終え、両掌を合わせ、神への感謝をし、目を開ける。すると、同時に、浩さんの深い落ち着いた寝息が止まり、彼も目を開ける。「ああ、眠っていたんだ。」と独り言。それが何かは分からないが、ヒーリング中、彼の身体は何かを受け止めている。

9月13日の夢の中で、私のヒーリングを邪魔する力は、この病院のざわめき、同室の患者から浴びる視線。おんぼろ長屋は、この病院の事ではないだろうか。「私は勝つだろう。自分を信頼することで乗り切っていく。」これは、夢の中で私が語った言葉。そして、ヒーリング中に、今日、実際に心に繰り返した言葉。

「私の内なる神の分身よ、宇宙に充満する生命エネルギーを、私の身体を通して、浩さんに注ぎ込みます。彼の体内に入った神のエネルギーは、細胞を元気一杯にし、全身を駆け巡ります。全細胞が、本来の力を取り戻します。肝臓に巣喰う癌細胞が、消滅していきます。私の一部である神の力が存分に開花していきます。神のエネルギーは愛の力。愛の力は必ず彼の身体を癒します。私は自分を神の意志に委ねます。私の心と魂を、神に捧げます。私は人生で最上のものを受け取ります。私は人生で最上の目的、神の意志に仕えます。私は神をはっきりと感じます。神の存在を心より信じます。神よ、ありがとうございます。深く感謝します。神の愛の力で浩さんは回復します。」

私は、自分が神の分身であることを強く信じていく。神の分身であるからこそ、神の力、ヒーリングエネルギーを自分のものとする事ができる。それを信じなければ、自分を信じなければ、ただの真似事。お遊びで終ってしまう。黄疸が、目だけでなく、皮膚にも広がっており、今日の彼の顔には、死相のごときものが感じられた。悪霊か、病魔か、癌細胞か知らぬが、私は闘う。「私は勝つだろう。」という夢の言葉を、神のメッセージとして奇跡を起こそう。

To be continued



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