ラッキィセブンティライフ

ラッキィセブンティライフ

伝説・鏡餅を飛び石にした話

 昔明高にひとりの長者がいた。

 長者はある日の夕方人気のないタタラ場にたたずんで、暮れなずむ、夕映えの空を見るともなくながめていた。

 長者の胸の中には、かつて経営していた鉄山の華やかな思い出が去来していた。

 飛ぶ取りも落とす勢いで、何一つ不自由のない生活に満足していたのは、ついこの前までのこと。

 先祖が始めたタタラ吹きは、年と共に発展し、鉄は作るかたわらからとぶように売れて、鉄を入れる鉄倉は貯蔵するいとまもなかった。 それにひきかえ銭を入れる宝蔵には、千両箱の山がつぎつぎとできていた。

 由良の浜から砂鉄を運ぶ牛馬の列は、砂鉄を降ろすと休む間もなく、製品の鉄を背にして行列を作り町へ下っていった。

 タタラ場には、絶え間なく鉄の湯が湧き、鞴を踏む番子の景気よい唄が流れ、鍛冶師は槌音高く火花を散らしていた。

 近郷の田畑、山林をすべてわがものとし、倉吉の町までの往来は、他人の土地を歩くことなく行けたというほどであった。

 山には、山子が炭を焼き、広い田畑には、大勢の小作人がたち働き、新しく水田を開くために山を切り崩し、野添川の水を引く水利工事も行った。
 まさに、朝日の昇る勢いであった。
 これもタタラ製鉄の守護神として、先祖が裏山に勧請した神社、若宮様のおかげだと毎月のお参りは欠かさなかった。

 ある年の暮、長者はニ十俵の餅米で多くの鏡餅を搗くことを命じた。 下男下女は主人の気持ちを不審に思いながら、二日がかりで餅を搗き上げ、大きな鏡餅を座敷いっぱいに並べ、並べきれないものは何段にも積み重ねた。

 大晦日が暮れて、元旦を迎えた長者は、朝の暗いうちから起きて、下男に自宅から若宮様までござを敷かせ、下女には、このござの上に飛び石のように鏡餅を並べさせた。

 そして、紋付、羽織、袴に威儀を正した長者は、家族を従え、この鏡餅を踏んで神社へ初詣を行ったのである。 これを見た村人たちは、その豪勢な羽振りに目を見はるものもあった。

 鉄山経営で大いに繁盛し、神社や仏閣に多額の寄進をして、村の長者と謳われたものが、この年から鉄の製品に粗悪なものが多くなり、鉄の売行きが、がた落ちし、家運に衰退の色が見えはじめてきた。

 強気の長者は、東奔西走して、鉄の販売に努めたがどうにもならなかった。 宝蔵の銭は見るみるうちに底をつき、広大な田畑もつぎつぎと手離していった。

 職人・使用人は一人減り、二人減りして大勢の人で賑わったタタラ場には誰もいなくなってしまった。 生まれた時から、なれ親しんできた、庭園つきの邸宅もやがて人手に渡すことに決まっている。

 これから先をどうするか。 - 夕焼けを見ながら長者は思案に暮れるのだった。

 この故事によって、明高では正月餅を忌み、餅を搗かず米の粉で団子をつくって餅の代わりとし、正月をすませた時代があった、と伝えている。    (関金町誌より)



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