グリーン・レクイエム (4)


肩を揺さぶられ、我に返ると、目の前に春斗の心配そうな顔があった。
「どうしたんだよ。目開けたまま寝てたのか?」
「そんな事できる訳ないだろ。」
俺は苦笑し、手の中にあった万年筆を見た。
 六年経った今でも、鮮明に思い出せるあの日の記憶――。あれから、俺達の親や警察などが駆け付け、山は騒然となった。捜索隊が山に入り、数日掛かりで建城兄を捜した。そして――、建城兄は見つかった。冷たい骸となって。毒物を飲んだそうだ。
 葬式の時、橘夏姉が言った言葉が忘れられない。「全て計画した通りだったのよ。」と。
 退院の数日前、橘夏姉は建城兄に言われたそうだ。死ぬ前に皆で思い切り遊びたいと。そしてあの山で死にたいのだと。あの山は、発病する前に家族と登った事のある山だったそうだ。あまりに強く言われたので、橘夏姉は断りきれなかった。そして、二人で計画を立てた。日が暮れかける頃に山頂にたどり着いたのも、あのおばあさんの家に行ったのも、計画した通りだった。ただ一つ、建城兄が出て行くのを俺が見てしまった事だけが計算違いだったそうだ。それを聞いた時、俺はただ悲しかった。建城兄が可哀相で、橘夏姉が可哀相で。橘夏姉が時折見せた辛そうな表情は、全てを知っていたからだったのだ。大好きな幼なじみが自殺するのを手助けしなければならなかった、その心中はいかばかりだったろうか。真波ちゃんは何も知らなくて、全てを知ってから橘夏姉を憎むようになったが、俺はそんな気にはなれない。
 あの日から、俺達は疎遠となり、あまり会っていない。けれどあの日から、俺達の進む道は、夢は決まった。橘夏姉は歌手になり、建城兄のためのレクイエムを歌っている。真波ちゃんは今大学で、カウンセラーになるための勉強をしているそうだ。そして俺は…。
「なあ春斗。何が何でも医学部、受かろうな。」
突然言われて春斗は一瞬きょとんとしたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。
「勿論!絶対医者になるんだ!」
俺達はにっと笑い合い、パァンと右手を打ち合った。
 俺は医者になろうと思う。建城兄のような難病の人々を治すために。ベタな理由だが、それでいいと思う。建城兄のように、未来を失くして命を絶つ人を、俺はもう出したくない。「命は何物にも代え難い大切なものだ。だから俺は医者になる。」建城兄の口癖は、今の俺の口癖になっている。
「なあ木葉。もう帰ろうぜ。腹へったし。」
春斗はもう片付けを始めている。俺も苦笑しながら片付け始めた。
 気付くと、もう外は薄暗くなっている。帰り着く頃には橘夏姉の歌声が聞けるだろう。建城兄のためのレクイエム、“グリーン・レクイエム”を歌う声が。今日は久々に、建城兄の家に行ってみようかと思う。
 あの日のような緋い月が、辺りを照らし始めていた。

icon羽根2


え~と、いろいろ突っ込みどころ満載でしょうが、何も言わないで下さい(泣笑)。大学2年の時に書き終えました。コレも元は夢からきてます。ある日大好きな兄ちゃんたちと山登りに行ったら、突然兄ちゃんがいなくなって、捜してたら、廃屋の納屋の中で首吊ってた。っちゅ~夢です。なんて嫌な夢…。


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