元証人とはその前日の6日朝農薬を飲んだ上で自宅の井戸に飛び込んで自殺した30歳の男のことである。 というようなことがあった。
彼は中田家の作男したことがあって善枝とは顔なじみだった。
被害者の体内に残されていた体液は B 型と警察が発表していた。
それと同じ血液型だったため疑われていた。
一方それに比べると脅迫状の文字は運筆に勢いがあって、1字ずつ固まって地べたを這っているような一雄のとは明らかに違って切れ味がある。 とまずは文書鑑定、筆跡の疑問点を呈し、犯人が字を書き慣れた人物、つまり、教養のある人物であることを示唆している。
書き慣れているのにわざと当て字にしている作為が透けて見える。
事件のあった日の夜六蔵は10時過ぎにバイクのエンジン音を響かせて帰ってきたと。
雨に濡れた革ジャンの生臭い匂いを 漂わせながら先に寝ていた一雄をまたいで自分の寝床に入った。
次の日の夜犯人が身代金を受け取りに行ったと言われている夜もやはり10時過ぎに帰ってきた。
そればかりか家から押収された六蔵の地下足袋は身代金を取りに来た犯人の足跡とも一致すると言われていた。
そのこともあって一雄は、あんちゃんが犯人ではないか、と強く疑っていた。
六蔵はその日の捜索を思い出すと今でも興奮した口調になる。 と、その兄は警察の捜索がでっち上げであったことを示唆する。
「見たら見えたんですよ、万年筆が。そんなバカな。今までなかったんですよ。慌てて置いたように斜になっていたんですよ。きちんと置かれてないんです。こう、斜になっていて、「ちょっと待って」ってお巡りに言ったんだ。なんで3回目に出たんだって」
するとそのような墓制や葬祭の儀式から排除されている被差別部落の住人に、生活のしきたりとしての作法が、とっさに無意識的に、現れることなどありえない。まで本書はまずは、石川一雄が犯人ではないことを示唆し続けている内容となっている。
この事実を見るだけでも差別部落の住人が実行者なのではなく、両墓制の色濃い堀金地区およびその周辺に住みこの辺りの地形を熟知している人物、そしてなおかつ被害者との顔見知り、あるいは極めて親しい人物、という犯人像が迫ってくる。
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