最近、寒さが身にしみるようになりましたね 司書室は窓は西向きだけしかなく、しかも山からの風がその西側の一面のガラス窓に当たって、外よりも寒い状況になっているのです 。しょうがないので、物置からガスストーブを引っ張り出してきて、 部屋を暖めているこの頃です 。ただ、同じ状況の図書館の方は、県のありがたい指針のために暖房がまだいれられないので、生徒には寒い想いをさせてしまっています。 もうちょっと、融通が利けばよいのですがお役所ですからね。辛いところです 。
そんなこんなで、今日も本の紹介に入りたいと思いますが、今回は私が注目している作家さんの作品を取り上げたいと思います。 毛利志生子 著『 夜の虹 』(集英社、2009年12月)です。この 毛利 さん は、『 風の王国 』シリーズでも有名な 集英社コバルト文庫のなかでも優良な作家さんのひとりです 。
では早速内容紹介&感想に入っていきましょう。まず、舞台は19世紀の帝政ロシア時代です。同じ19世紀モノとしては、コバルト文庫で探しますと『 伯爵と妖精(あいつは優雅な大悪党 ) 』シリーズや『 恋のドレスとつぼみの淑女 』などの 『 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー 』シリーズがありますが、いずれも19世紀イギリス、ヴィクトリア朝時代が舞台です。この『 夜の虹 』はところ変わって これまで見向きもされなかった19世紀帝政ロシア時代を始めてライトノベルで取り上げた作品ではないでしょうか 。
この19世紀帝政ロシア時代を簡単に紹介しますと、ようやくロシアにも産業革命の波が押し寄せてきた時代(作中の登場人物で、クリミア戦争に従軍後、実業家に転じた人がいるので、少なくとも戦争終結時の1856年以降、つまり19世紀後半であることが推測できます。)です。鉄道が開通し、蒸気機関を備えた最新の工場が乱立し、ツァーリ・アレクサンドル2世の農奴解放令(1861年)により、農村より農民が都市へと流入、新たな階級、労働者となった時代です。それと共に、ナロードキニ(人民主義者)や社会主義者がストライキや武力闘争に入っていった暗い時代、という側面もあります。つまり、帝政ロシアの転換点、となった時代が舞台なのです。ですから、新しい風と振るい澱んだ空気がぶつかる時代であったわけです。その様な雰囲気の中で物語は始まります。
主人公である オリガ・ハルコト は、 幼少時に父親の死を目撃したことから、すでに死んだ人の死の瞬間を見てしまう能力を得てしまいます 。しかしそんな能力のことを人に話せるわけがありません。さらに、不可解なことに死んだはずの父親の遺体が見つからず、さらに、父親が多額の財産を処分していたことから、周囲は失踪したと思い込み、ひとり父親の死についての謎を心の奥底に抱いたまま モスクワ で生活しています。そんな彼女の周りには、病弱の母親に代わって彼女を引き取った、大功をたてた元軍人で、現在は多くの領地と工場を有する実業家の伯父の ラズモスキー公爵 と、その妻で、美人で明朗な性格のオリガの伯母にあたる マリア 、 家政婦頭の ヴォガーノフ夫人 、寡黙な(口が利けない)御者兼オリガの従者の オローク たちと生活しています。 オリガ は、絵を描くことが好きで、多少の才能に恵まれていたました。本では、 ペテルブルグ に招かれ、皇后の愛犬を描く機会を得たとありますから、貴族のお嬢様の趣味の範疇を超えていることが分かりますね。
そんなある日、 オリガ が従者の オローク と共に伯父の所有する広大なフォンタルカ公園へ絵を描きに出かけたとき、 死者の残像を見てしまいます 。 まだ、五,六歳と思しき少年が小屋の中へ入って出てこないという残像を 。彼女は、躊躇したあとに公園を管轄するハモヴニキ区警察第七分署へと赴きます。署長さんと伯父の公爵は知り合いで、彼ならオリガの作り話を疑うことなく、公園の小屋を調べてくれるだろうという思惑です。ですが、署長は別件で出掛けていて、 代わりにいたのが決闘で上官を殺めて近衛連隊から追放されこの地区の副署長に左遷されたという噂のある青年 、 ロジオン中尉 でした。 こうして物語は、ひとりの少年の事故死から大きく展開していくのですが、ここから先は本を読んでみてください 。ただ、 登場人物が一癖もふた癖もある者ばかりなのが面白いです 。 オリガ の婚約者でイギリス人の弁護士、 アーサー や影のある憲兵少佐の レオニード など人物描写が素敵です。また、 作中に出てくるロシアの郷土料理の描写も見事で、寒い司書室で読んでいると、熱々の揚げたてのピロシキ食べたい!なんて思わせてくれます 。
著者の 毛利 さんは、 小説の設定にこだわる人で、作中のロシアの風俗や風習といったものには、確かなものがあります 。 そうしたしっかりとした土台の上に物語が形作られているのでしっかり読み込むことができます 。 それでいて、ライトノベルなので読後感もすっきりとしています 。あと、 私は毛利さんの作品のあとがきの最後にあるちゃんとした「主要参考文献」を調べて探して読むのも楽しみの一つにしています 。 どこのぞの誰かさんみたいにあとがきで遊んでいないところがよいですね。
というわけで、このお話を要約すると、 秘密を抱えて奔走するオリガに、いたずらな春の風が吹き始める...、といった感じになるでしょうか 。それでは。
シリーズ二巻目もでています。
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