みなさま、お久しぶりです。ちょっと鬱が悪化したのと、讀賣書法展の作品作りに忙しかったので、6月はブログの更新ができませんでした。でも、今週が讀賣展の締め切りで、ようやく一息つけたので、パソコンの前に座ってブログの更新と相成ったわけです。
村上リコ 著『 【送料無料】図説英国メイドの日常 』(河出書房新社、2011年4月)について、語っていきましょう。
この本の作者、 村上リコ さんは知る人ぞ知る、その筋では有名な人です。この人、 森薫 さんと一緒に『 【送料無料】エマ ヴィクトリアンガイド 』(エンターブレイン、2003年12月)を書き上げた人です。それだけで凄いのに、さらにアニメ『 英國戀物語エマ 』シリーズと同じくアニメ『 黒執事 』の時代考証を担当し、スタッフの想像力をかきたてるお仕事をなさってきた方なのです。
こんな人が作った本なので、6月中の蒸し暑く(私は、暑さより湿気、ジメジメに弱い体質なのです)鬱でドヨ~ンと淀んだ気分を、押し上げてくれる、というかそのような気分を一時忘れさせてくれるような良書です。
では、内容に入っていきますが、端的に掻い摘んで紹介してみると「 百年前の英国における、働く女子の最大多数派「メイド」たちの素顔に迫る、絵画・挿絵・広告・絵葉書、そしてプライベート写真などの英国メイドの日常を描いた貴重な図説を300点以上収録した本 」という感じになります。
そんな訳で、 とにかく百年前の雑誌の挿絵、広告、私的な写真やポストカードなど、さまざまなタイプのメイドの図像を大量に収録した本です
。しかも中には、この本でしか見ることのできない非常にめずらしいものも数多く含まれています。それこそ、英国本国の図書館や博物館などに収蔵されているようなものや、図説だけではなく、まだ邦訳されていない百年前の英国のメイドたちの日記などの記録資料も紹介されていて、この時代の英国の文学・文化・歴史に興味を持つあらゆる人にとって、必携のヴィジュアル資料となることは請け合いです。
帯の裏側にも「 本書では、19世紀後半から20世紀初めまでの英国を中心に、さまざまなタイプの図像を集め、メイドたちの人生を再構築してみたい。「
いちばんふつうの女の子たち」を脇役から主役に置き換えて、彼女たちの目線に寄り添いながら、その仕事、喜び、悲しみ、怒り、恋や結婚、未来について考えてみよう
」と本文の中から抜粋して紹介しています。
そのように、19世紀英国ヴィクトリア朝の最大多数派の女の子たちだった「メイド」たち。文学や映画の中では常に脇役、名もなき影のように扱われてきた「メイド」たち。そのように目に見えているのに姿を見せないようにふるまってきた、百年ほど前の英国のメイド自身の生活の実態と心情を見事に解き明かしたのが本書です。
この本は、以下のように「序章 メイドの素顔」、「第1章 メイドの居場所」、「第2章 メイドの旅立ち」、「第3章 メイドの仕事」、「第4章 メイドと奥様」、「第5章 メイドと同僚」、「第6章 メイドの制服」、「第7章 メイドの財布」、「第8章 メイドの遊び」、「第9章 メイドの恋人」、「第10章 メイドの未来」と11のパーツから成り立っています。 どれもこれも、内容が素晴らしく、先に掻い摘んで全体を紹介しましたが、中身に入っていこうとすると、ドンドン深みに嵌まって、内容の概説ではなくなってしまいそうなので、私が気に入ったエピソードを抜粋することで我慢します
。
一口にメイド、と言ってもその役割様々あります。台所担当のキッチンメイドやそのキッチンメイドの下につく洗い場担当のスカラリーメイド。子守をするナースメイドに付近の住民や訪問客に「見せる」ためのパーラーメイド等々。メイドはその家の資産状況や規模に応じて様々な役割を分担したり、兼業したりしていました。そして、そのようなメイドの中で最も大多数を占めていたのが下層中流階級以下の家で働く、 メイド・オブ・オールワーク 、もしくは ジェネラルメイド と呼ばれた「すべて」の家事労働を行うメイドでした。
そんな メイド・オブ・オールワーク の中で1854年から1873年にかけて、膨大な量の日記を書いた稀有な女性がいます。その女性、 ハンナ・カルウィック は労働者階級の、特に女性の記録文学が非常に少ない時代、彼女と階級違いの秘密の交際をしていた紳士 アーサー・マンビー に宛てて日々の仕事内容を伝えるために綴ったものでした。 その日記からは、ヴィクトリア朝時代のメイドの平凡な毎日を詳細に伝えてくれます 。では、当時のメイド・オブ・オールワークの日常がどのようなものであったか、1860年7月18日、彼女が27歳の時の日記を引用してみます。
キッチンの火を起こす。暖炉の掃除。部屋を掃き、ちりを払う。ブーツを磨く。階上の朝食を持っていく。ベッドメイクをし、汚水を片付ける。朝食の片付けと洗い物。ナイフを磨く。昼食の支度をし、テーブルクロスをかける。食器の片付けをしてパンを焼いたあと、しばらく日食を眺めた―ほんの少しの間だったけど、なんてすばらしいのだろう、こういうことがいつ起きるかみんな知っておくべきだと思った。キッチンの掃除。『御主人様』と会ったときに汚れをぬぐったタオルを洗う(マンビーの希望で、ハンナはわざと汚れた姿で会った。)旦那様の昼食を出す。自分の身をきれいにし、お茶を飲む。伝言を届ける。食器を片付ける。同僚のアンが弟と一緒にライフル兵を見に行ったので、代わりに子どもを庭につれだす。子どもたちを寝かしつけ、汚水を片付ける。階上の夕食を出す。食器を片付け、十一時に就寝。
といった、重労働です。起床は六時か六時半で、就寝は十~十一時。毎日十六時間を超える重労働であり、パーティーや同僚の手伝いなどの イレギュラーな業務が入るとさらに長くなります。そして、どんなに仕事が大変でも、有利な職場を選べるだけのツテや才覚なければ、 このような メイド・オブ・オールワーク からはじめるしかありませんでした。1871年の国勢調査では、国内の女性使用人のうちほぼ3分の2が「 ジェネラル 」でした。このように、 メイド・オブ・オールワーク は、最大多数のメイドたちの中でも、さらに過半数を占める存在だったのです 。
他にも、ナースメイドやキッチンメイド、ハウスメイドにパーラーメイドなど様々な職種のメイドが紹介されています。この本より前に 久我真樹 さんが『 【送料無料】英国メイドの世界 』(講談社、2010年11月)をちゃんとした本の形で出版されましたが、こちらは良い意味で緻密で学術書の趣さえある、優れた書籍があります。今回、 村上リコ さんが出された本は、 久我 さんの出された本とはある意味で正反対の本だと感じました。 村上 さんは、あくまでヴィクトリア朝時代に生きた等身大のメイドと、そのメイドにまつわる雰囲気を上手に当時の写真や図版、日記や書簡などを用いて描き出しています。何と言いますか、 久我 さんの本が先にも述べた分厚い学術書なら、 村上 さんの本はそれより敷居が低く、より噛み砕いてメイドを紹介した入門書と言えるのではないでしょうか。 でも、個人的には 村上 さんの本の方が、ヴィジュアル資料を効果的に用い、英国の資料をふんだんに使って「目」で見せて読ませる分だけ、読んでいて楽しかったです。みなさんも、図書館へ行ってこの2冊の本を読み比べてみて、本当のメイドとはどういう存在だったのかを再確認してみて下さい。
最後に、村上さんのブログのリンクを置いておきます。興味のある方は、覗いてみて下さい。
村上リコの本棚 http://writingto.seesaa.net/
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