濫読屋雑記

濫読屋雑記

2012年10月09日
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カテゴリ: 手に取った本

さて、久方ぶりの更新は 日向夏 さんの『 薬屋のひとりごと 』(主婦の友社、2012年10月)を紹介していきたいと思います。

猫猫 (マオマオ)。妓女たちを相手に、風邪から性病まで面倒を見て、薬の知識に長けている少女です。ところがある日、薬取りに森へ入ったときに人さらいにあい、後宮に売り飛ばされて下女として働くことになってしまいます。普通なら「人さらい~!」「ここから出して~!」と悲嘆に泣くのがたいていの女の子なのでしょうが、花街で育ち元々冷めた性格の 猫猫 は、日々ため息をつきながら下働きを淡々とこなします。そして、身を低くして目立たないように奉公の二年の期限が切れるのを待っていたのです。なぜそんな風に教養(薬の調合ができるのですから文字の読み書きもできるのです)を隠していたかと言いますと、給料の一部が人さらいに搾取されるシステムになっていて、当然位が上がると給料も上がるわけで「 自分をさらった悪党に金なんかやるものか! 」という思いがあったからなのです。

このように、目立たぬように後宮の最下層の身分の下女として日々を過ごしていた 猫猫 でしたがある日、後宮で世継ぎの宮たちが相次いで三人も亡くなり、残る二人の宮も命が危ないという話を耳にします。持ち前の好奇心と知識欲に突き動かされ、その原因を考える 猫猫 。最初はお決まりの毒殺かと思いましたが、亡くなった宮のうち二人は公主(ヒメ)でしたので毒殺の線は消えます。そこで、亡くなった宮がだんだん弱っていったこと、頭痛や腹痛、吐き気などの症状があることを仲間の下女から聞き出した 猫猫 は、確証を得るために理由を作って後宮の妃の部屋をのぞきに来ます。そこで見たのは、東宮(皇太子)の母親である 梨花 (リファ)妃と公主の母親である 玉葉 (ギョクヨウ)妃の二人が、医官を挟んで怒鳴りあう姿でした。そして、 梨花妃 の白い肌とおぼつかない身体を見た 猫猫 は原因を確信します。それは、女性の肌に塗る白粉(おしろい)でした。この小説の舞台の時代には、上等で肌をいちばん白く見せる白粉には水銀や鉛白が含まれていたのです。そうです、宮たちの死因は鉛中毒だったわけです(物語の後半にそのことが書かれています)。このことを、布きれに草の汁を使って「 おしろいはどく、赤子にふれさすな 」と書き、双方の妃の部屋の窓辺の木の枝に結んでおきました。しかし、 梨花妃 は忠告を聞かず東宮を失い、 玉葉妃 は白粉を塗って公主に授乳していた乳母に暇を出すことで、公主は助かります。こうして、後宮で生まれる赤坊の連続死をこっそり解決した 猫猫 でしたが彼女に思いもよらない運命が待っていたのです。

それは、 壬氏 (ジンシ) という美貌で頭が切れる宦官に、 猫猫 が病気の原因を突き止めたのは自分だということがばれたことでした。ちょうど、公主の命の恩人となった 猫猫 玉葉妃 の侍女が少ないこともあり、妃の侍女に抜擢されます。しかしその役目は、 毒見役 ・・・。普通の少女だったら裸足で逃げ出すところでしょうが、 猫猫 は知的欲求が薬と毒物に傾きすぎている世が世なら「 狂科学者 (マッドサイエンティスト)」と呼ばれるような娘だったのです。傷薬や化膿止めの効能を調べるため自傷行為を行い、毒を少しずつ飲み耐性をつけ、時には自分から毒蛇をかませる始末・・・。

こんな一風変わった少女が宮中で起こる難事件を、薬学、毒物学の知識を駆使して解決していくというのがこのも語りのあらすじです。無愛想で人にも美形の 壬氏 にも関心を示さず、常に冷めているのに、毒を含んだ時の舌先の痺れに恍惚の表情を浮かべる 猫猫 ・・・。 そんな少女の活躍ぶりが予想以上に痛快な冒険小説でもファンタジーでも無い小説です。ですが、ちょっと気楽ににやにやしながら読むのにはお勧めな小説だと思います。 なにしろ単行本サイズで、定価が790円(税別)なのですから。

そしてこのお話は、元はWEB小説だったそうですが、そうとは思えないほどの完成度の高い作品に仕上がっています。 また、WEB小説の雰囲気を壊すような萌絵のような表紙や挿絵がなく、表紙に中華風の普通の絵で主要な登場人物を配することで、上手く小説の登場人物の容姿をさらりとあらわしているのは小気味良いと思います。 ただちょっと 猫猫 が中世という時代設定万能すぎるかな、という点と、文章の中には、「低温やけど」のような現代用語が出てくるのが少し気になりましたが、そんなもの質の悪いライトノベルや携帯小説に比べたら全く気にならない程度のものです。 物語も、最初から最後まで筋が一本ピンッと張られていて、そこから色々と面白いエピソードが派生してきて、面白いやら、あきれるやら、感心するやら、少しホロリとくる場面があって、最後まで読んでいて面白い作品でした。 先にも書きましたが、本当に適度な軽さで読みやすくて面白い本です。軽いミステリーや中華モノが好きな人にはお勧めしたい一冊です。

追記






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最終更新日  2012年10月16日 06時05分08秒
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