濫読屋雑記

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2012年10月17日
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カテゴリ: 手に取った本

佐藤賢一 /原作、 紅林直 /作画『 かの名はポンパドール(1) 』(集英社、2012年4月)を紹介していきたいと思います。

原作者の 佐藤健一 氏と言えば西洋歴史モノの第一人者で、有名なところでは『 傭兵ピエール 』や最近の著者だと『 小説 フランス革命 』などを書かれている方です。作画の方の 紅林直 さんは、『 嬢王 』の作者です。この強力な組み合わせで挑んだ題材が ポンパドール侯爵夫人 なのです。

ここで、 ポンパドール侯爵夫人 について歴史的な解釈を書いておきます。生没年は1721年12月29日 - 1764年4月15日。 ルイ15世 の公妾で、その立場を利用してフランスの政治に強く干渉し、七年戦争ではオーストリア・ロシアの二人の女帝と組んでプロイセンと対抗した人物であると、歴史辞典を紐解けばこう載っています。私個人的な感想を交えるなら、尊敬して敬愛しているプロイセンの フリードリッヒ大王 を自決寸前まで追い詰めた「 3枚のペチコート作戦 」の立役者として、悪役としてのイメージがありました。ちなみに「 3枚のペチコート作戦 」とは、フランスの ポンパドール侯爵夫人 、オーストリアの女帝である マリア・テレジア 、そしてロシアの女帝・ エリザヴェータ の3人が反プロイセン同盟を結んでプロイセンを包囲したことによるものです。とくに、長年にわたって敵対関係にあったフランスとオーストリア(神聖ローマ帝国)の歴史的な和解は、外交革命と呼ばれるほど画期的なものでした。

その ポンパドール侯爵夫人 の生い立ちはと言いますと、漫画でも描かれていますがあまり良くはありませんでした。彼女は父がパリの銀行家 フランソワ・ポワソン と食肉卸の娘である母 ルイーズ の子、 ジャンヌ・アントワネット・ポワソン として生まれます。ところが父親が不正取引で国庫の金を着服してドイツへ逃亡してしまいます。母親は直ちに夫と離縁してしまが、母親に悪評が立ち王室御用の銀行家、パリス兄弟のお手付きと噂されてしまします。しかしその逆境の中、平民という身分ながらブルジョワ階級の娘として貴族の子女以上の教育を受け、優秀な成績だった ポンパドール侯爵夫人 は、1741年に徴税請負人の シャルル=ギヨーム・ル・ノルマン・エティオール 氏と結婚します。ちなみに結婚相手の伯父の トゥールネム 氏が彼女の養父でした。

さて、16歳で社交界にデビューした ポンパドール侯爵夫人 は(当時のフランスの上流階級では、女性は結婚して初めて地位が持てる存在でした。) タンサン夫人 ジョフラン夫人 の超一流サロンに出入りするようになります。そして、 ポンパドール侯爵夫人 は美人で博(エスプリ)がある女性として、 ヴォルテール フォントネル ら一流の文化人と知り合いサロンの華となります。1744年にはその美貌が ルイ15世 の目に留まり、彼女は ポンパドゥール侯爵夫人 の称号を与えられて夫と別居し、1745年9月14日正式に公妾として認められました。(この当時のフランスでは先にも書いたような状況であり、結婚とは政略と生殖が第一目的。そのため子どもさえ産んでしまえば、あとの女性は地位を得ながらにして自由になり好きに愛人を持てるようになるのです。裏を返せば、男は女が結婚していなけらばどんなに好きでも自分の愛人にならないという、おかしな風習だったのです。)

ではここで、公妾について簡単に説明を。先にも書いた通り、当時の結婚は政略結婚が主流で、国王の結婚ともなれば外交の最大の駒でした。そして、王妃の第一の役目は国王の跡取りを産むことだけでした。という次第で、当時のフランスの宮廷には「 王の公認の愛人 」の役職があったのです。この制度、他の欧州諸国の中でも極めて異例な制度で、国王の褥の相手としてだけでなく、宮廷の儀式でも一定の役割が与えられ、文化人たちのパトロンとなり、娯楽を演出するなど、王妃をしのぐ権力を行使していました。「 国王の公認の愛人 」となる資格は、既婚女性で貴族の出であることでした。そして愛人の子は国王の後継者にしないという掟が存在しました。この制度は、お隣の英国王 ヘンリー8世 が妻と愛人の板挟みとなり暴挙(妻を次々に処刑し、ローマ教会から破門され、英国国教会を独立させる)を見た フランソワ8世 が、 ルイ15世 の御世から200年あまり前に作った制度です。

この作品は画力に定評のある 紅林直 さんを絵師に起用していて、 ポンパドール侯爵夫人 の世界、ヴェルサイユの宮廷内の陰謀やエロスが同系等作品のようにいかんなく発揮されています。小説からのフォーマットを変えてるぎこちなさが無い点は、『 傭兵ピエール 』でコミカライズに失敗した集英社が挽回を狙っているのかな~、と考えたりもします。また、当時の風俗や習慣、背景をイギリス王室やヨーロッパ絵画のその筋では有名な、神奈川大学の 石井美樹子 教授のコラムで補足している点も、評価が上がるポイントです。

この漫画は、その美貌と才覚のみでその座をつかみ、権力を行使し時代をリードした実在の人物の物語です。後宮、ハーレム、大奥と、古来権力者の周りにはたくさんの女性が奉仕していました。キリスト教国(しかもカトリック!)にも国王の愛人がいるのは当たり前ですが、一夫一妻制のキリスト教において、本来日陰者という立場になるはずです。このようにあからさまで、そして政治、芸術、文化をリードするという女性、 ポンパドール侯爵夫人 という人物は欧州史的にも珍しい存在です。 ルイ15世 は、その政治的業績よりも、愛人を揃え、風紀を乱したことで歴史に名を刻んでいます(しかし、妃に対しては良い夫であって、問題は国王が並はずれた絶倫家で、妃がもたないから愛人を囲った、というのが事実らしいです)。 ポンパドール侯爵夫人 はその象徴的人物として見られてきました。

しかし私は、 佐藤賢一 ポンパドール侯爵夫人 を書くならその視点だけでは無いと予想します。後の革命左翼に マリー・アントワネット と共に悪女の烙印を押され続けた ポンパドール侯爵夫人 ですが、一方で革命の元となった ルソー の友人でもあるのですから、彼女は。 佐藤賢一 が書き 紅林直 が描く ポンパドール夫人 これから要チェックの作品ですよ。近世ヨーロッパに関心のある方は、ぜひ手に取ってみてください。






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最終更新日  2012年10月18日 06時10分08秒
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