本日は、 七沢またり 著、 チョモラン 画『 死神を食べた少女(上) 』(エンターブレイン、2012年12月)について、思いついたことを書き綴っていきたいと思います。
この本のモトは、WEB小説らしいのですが、私はWEB小説は基本、読まない人間なので、元のお話は知りません。ただ、他の方のレビューやブログでは「WEBから加筆があり、はっきりしていなかった部分が書かれていたり」と書いてあるので、書籍化に際して作者や編集がある程度手を加えて読みやすくした作品なのかな、と思います。
それではこの小説の中身に入っていきますが、 この小説の「発想」秀逸なのです 。 それは本の主題にある通り、「死神」を「食べた」という少女が主人公という点です 。これまで、死神と契約するとか魂を売るとか、または死神に憑かれた人を救うとか、退治するという展開のお話はありましたが、死神を「食べる」という発想は、私の頭の中で考え付かなかった斜め上を行くものでありまして、この本の主題を見た時から、面白い物語が読めそうだと期待しました。
で、この物語の主人公なのですが、主題の通り「 死神を食べた少女 」です。この少女は、荒廃して内乱が勃発しているとある王国の貧村に住んでいる、人より少しだけ食欲が強い子です。その少女がある日、王国兵の偽装をした反乱軍の傭兵で構成された略奪部隊に村を襲撃され、少女、名を シェラ というのですが、も傭兵に捕まってしまいます。この時、 シェラ は自分の最後の食糧を奪った傭兵を、自らが犯され殺されそうな状況下なのに、殺意を抱きます。そしてその殺意とともに、発狂しそうな空腹感に襲われます。そして何か食べるものがないかと血走った目で探したところ、目に入ったのがパンより美味しそうな獲物・・・。大きな鎌を持って黒い装束を身に着け、骸骨の仮面をつけた死神を見つけたのです。そして、自分を犯し殺そうとした傭兵と重なった死神の「 美味しそうな 」首筋めがけ、死神が振り下す鎌より早く、 シェラ は傭兵の喉を噛み切り、噛み千切った人肉を吐き出して死神に深く喰らいついたのです。そして、暴れ狂う死神の身体を押さえつけ、何度も何度も喉へ歯を突き立てます。生贄の予期せぬ反撃に死神は大鎌を手放し体制を崩します。そして、 シェラ は死神に喰らいついたまま決して離さず、ついに死神は力尽きてその場に崩れ落ちます。しかし、骸骨の仮面が外れると、そこには何もなかったのです!「 死に行く者の野心や欲望を刈り取る死神が、食欲に突き動かされた少女に敗北した。 」 のです。これがこの物語の導入部分です。
という次第で、始まりはかなりシュールな展開で始まるのですが、内容はかなり戦記モノ的な雰囲気の作品です。表紙や主題からは想像できませんが。でも、その内容は戦記モノといっても戦術戦略を競い合うような話ではありません。基本的に シェラ が戦場で死神の大鎌を振り回して超人的な活躍をするところが、見せ場の一つです。その シェラ は、村を反乱軍に襲われたという理由から、王国の兵士として戦うことになり、個人的な武勲を重ね、部下の狂信的信頼を得て反乱軍相手に奮戦をします。しかし、出てくる味方は極々一部の例外を除いて無能で出世欲が強い俗物ばかりで、 シェラ とその隷下の王国部隊は戦闘では勝っているのに、全体的、戦略・戦術ともに次々と反乱軍に負けてしまいます。この辺が、腐敗して末期的症状の王国の姿を映し出していて、物語にリアリティを添えています。
この物語の世界観ですが、基本ファンタジー世界ですが派手な魔法は出てきません。せいぜい魔法で爆発する地雷とか、医療目的の程度の魔法のみです。戦闘でも、火器はでこないので、冷兵器(剣とか槍)や弓矢や弩が出てくる程度です。そして主人公の シェラ
は死神を食べたことで無双の力を手に入れていますので、愛用の死神の大鎌をふるって、敵味方から文字通り「 死神
」のあだ名をつけられ恐れられます。そのようなところでは、主人公無双なお話が好きな人にもおススメな作品だと思います。ただ無敵というか、不死身な人間にはなってないので、その方面の話を嫌いな人でも読めると思います。そして、上下巻でしっかりと完結していますので最後まで安心して読めます。
では、物語の中で シェラ
はどのような活躍をするかというと、大鎌で首を刈り取ったり、体を真っ二つにするなど基本的に敵、反乱軍は惨殺です。そして戦闘以外の時は基本なにか食べてます。行軍中でも戦闘前なら何か食べてます。もしくは飢えてます。この物語の中で、 シェラ
は反乱軍を殺すことと、食べること、美味しいものを一杯食べることや、隷下の部下たちと食事を共にすることを楽しみに生きています。
こういう意味では主人公の シェラ は、自由奔放、気ままに戦争という舞台を駆け抜けていきます。そのような状況を、上下巻を通して シェラ が能力を経て戦いに加わる所から、王国と反乱軍の戦いの後日談までストレートに一気に読めるように書かれたお話です。所々、ストーリーにほつれというか、突っ込みどころがありますが、そんなことを気にしないほど、 この 物語を読んでいると、ハラハラ感といいますか程よい緊張感があり、登場人物も先にも書きましたが一癖も二癖もある人物ばかり 。 そして読了後の爽快感は、何とも言えません 。
勝者の歴史の中で、不合理な犠牲として切り捨てられた者たちの思いを背中に背負い最後まで戦い抜く、敵から死神と呼ばれる少女
、 シェラ
。 負けゆく中で泥臭く、豪放磊落に生き抜く英雄の姿は読んでいて清々しくワクワクさせられます
。 見開きのイラストも素晴らしく、作品の世界観を堪能できます
。 上下巻で、 2,100円
とは安いと思う満足感あふれる作品です
。
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