俺とユーロとC.D.と・・・(何

第17話『恋心』



それがどんな時であれ、どんな状況であっても、人は逆らう事が滅多に出来ない。

その恋心は時に過激と言えるべきモノにまで発展し、ややもすれば命さえ奪われてしまう。

そしてその恋心は、私達の前にも表れる事となる・・・

泰斗と将来の家庭について話してから数日後、私はその時から続いていた安心感で心が満たされていた。
最早何も要らない・・・とは言わないけど、このままでずっといたいくらいに
強く優しい安心感だった。
あの時泰斗が放った一言は、私の心にどれ程までに強い衝撃を与えたかは
私自身でも分からない程に強く、心に響くモノだった。
これ以上何があって良いのか・・・私はそうとまで考えるようになっていた。
あまりの浮かれすぎに思わず自分で自分を見て笑ってしまう程、私は
溢れるような幸福感に満ちていた。

しかし、突如として携帯が唸りを上げた。
確かに時間的には夕方4時だし、鳴ってもおかしくはないかな・・・とは
思っていたけど、なんとメールの相手が心菜だったのだ。
こんな時だから・・・って思ってもいたけれど、今考えれば普段こんな平日の
夕方にあまりメールをして来ないので、ちょっと気にかかっていた。
早速メールボックスを開け、本文を見てみると・・・

「ちょっと話があるんだけどさ・・・
良ければ明日位、時間取れない?」

意外な時間に来た割には、やけにシンプルな本文だった。
かなり簡潔に書かれていたが為か、中にある心情というモノを
中々見出せるに至らなかった。元来、文字のみの世界で人の
心情を見るだなんてほぼ無理に近い話なのだが・・・。
ただ、明日なんてロクに予定が無かったし、部活にも何処にも所属して
いない為、普通に「いいよ」と返信メールを打っておいた。
普段は休日等に遊ぶ回数がある心菜にしては、あまりに珍しく、そして
不気味に思える程珍しい日日の選び方だった・・・。

次の日。予定通り高校も終わったし、とりあえず早めに帰路に着いた。
たまたま泰斗も帰ろうとしていたので呼び止め、いつも通り
「一緒に帰ろ」と言って、二人で帰り道を歩いていた。

『あの心菜がこんな平日に、なぁ・・・
俺と話している時でさえ休日を利用していたってのに。』

泰斗と話をする際でも休日を利用して私の事を話していたという
心菜。しかし今回、何故こんな平日を選んだのか、私の中では
それさえ全く掴めない「何か」が存在していた。
私もその内容さえ全く掴めていない為予想だけで話を進めていたが
どうしても引っ掛かるモノがあった。

『・・うん、心菜にしては結構珍しくてさ。
平日を選ぶだなんて、それ程までに特別な用事があるのかな・・・?』

『案外そうだったりしてな。考えられなくは無いと思うぞ。
ただ、アイツもアイツなりの事情があるんじゃないのか?』

『・・うーん、やっぱりそうだよね。
ゴメン・・・ちょっと私、深く考えすぎてたみたい。』

『・・・って、何故俺に謝る?
普通その台詞は心菜に対して言うモンじゃねえのか?』

『・・あ、そうだった。ゴメンゴメン;;』

『・・・二重かよ。ってか、そろそろ来てる時間なんじゃねえか?』

『えっ!・・・き、気が付けばこんな時間だったの!?
と、とりあえず先帰るねっ!じゃねー・・・!』

『(・・・良く慌てる奴だなぁ;;)』

そんな顔で困惑する泰斗を残して一人走る私。
気が付けば時刻は既に4時を回っており、ちょっとマズいかな?とは
思っていたが、予想外に時間の進行が早かったので、ちょっと慌てて
家まで急いだ。・・・後の祭りになってないといいんだけどなぁ、なんて
思いながらも、出来る限り急いで走った。

『・・ハァ・・・ハァ・・・た、ただいまぁ・・・。』

家に着いた頃には、既にクタクタになっていた。
息は荒く、足は疲れ果て、流れるように振った手はへなへなになっており
最早これが私であるのか分からないような大胆なポーズで、玄関に
倒れこんでいた。・・いや、疲れただけなんだけどね。
しかしすぐにインターホンが鳴り、鍵をかけていなかったドアが開き
心菜が私の前に立っていた。

『・・・な、何やってんの、飛織・・・?』

思わず心菜は眼を大きく開け、私を見る。
まあ確かにそんなポーズでブッ倒れていたら誰が見たってあからさまに
変だと予想出来るのは確かだが、そこまで見なくても・・・なんて
密かに思っていた。

『・・・え?見れば分かるじゃない、見れば。』

『・・・イヤ、だ、だから、そうじゃなくてさ。
何でこんな所で倒れてるのかなぁ・・・って。』

『さっき時間見たら結構いってたから、もう心菜来てるかなぁ・・・って思って。
そしたら急ぎすぎて疲れて、さっき帰って来たばっかりなんだけど、そのままブッ倒れてた。』

『・・・ふふっ、飛織らしいね。』

『・・そ、そうかなぁ・・・?』

とりあえずそんな会話を交えた後、私は起き上がり、部屋へと案内した。
勿論その時しっかり鍵は閉めた。あの時確かに心菜は「お邪魔します」と
言っていたけど、何故かこれまでには無いような、ちょっと暗めで恥ずかしそうな声だった。
一体どうしたんだろう・・・?と、私はちょっと気になってしまった。

『・・・で、話って一体どうしたの?』

『・・さっきの声で分かっちゃったかもしれないけど、
私って前に比べてちょっと恥ずかし気な風になっちゃったでしょ?』

『・・まあ、確かにそんな感じはするけど・・・』

『・・・実はね・・・。』

『・・実は?』


『・・・私、また恋人が出来ちゃったの・・・』


『・・・ぇ?』

私は思わず聞き返した。以前はあそこまで泰斗に惹かれていた
心菜が、どうして他の人を好きになったのか私には分からなかった。
一途に想いを伝えたのに、拒まれたから・・・?
私が心菜から取っちゃったから、その逆恨みとして・・・?
最早私は、何が何だかさっぱり分からなくなっていた。

『同じ高校で、別にカッコいいとか言う訳じゃないんだけど、何故か
妙に惹かれるモノがあって、ちょっと惚れちゃったんだ・・・』

『・・以前までの、泰斗に対する恋心ってのは、本当に消えちゃったの?』

『・・うん。好きじゃないって訳じゃないんだけど、やっぱり
飛織に譲っちゃったし、諦めるかな・・・って。あの時は確かに涙まで
流しちゃったけど、今では完全に吹っ切れた、って感じかな。』

『・・へぇ。で、その人とはうまくいってるワケ?』

『うん。あっちもあっちで私の事を気に入ってくれたみたいで、
意気投合してうまくやってるんだけど、やっぱり私もちょっと考えて
みた事があるんだ・・・。』

『・・何?』


『人生で見た人に惚れるって事は沢山あると思う。
でも、愛する事って、何回でもやって本当に想いが通じるモノなのかな・・・?』


『心菜・・・』

あまりに心菜らしい質問だった。確かに何度でも人に惚れる事は出来る。
でもお互いを愛する時になって、過去に愛した人がいて、本当に
一途な想いとして相手にストレートに伝える事が出来るかと言われれば、
確かにカーブして曲がっていってしまうかもしれない。
私は心菜にどういえばいいか少し戸惑いながらも、とりあえず
慰めてあげたいという気持ちだけを前面に出そうと努力はしていた。

『・・・それは分からないよ、私が言える事じゃない。
でも、二度も三度も違う人を愛すのは、あまりやっちゃいけない事だとは思う。』

『・・・そうだよね、やっぱり。』

『でもね、それは禁止されているワケではない。過去に愛した恋人には
イヤだと感じた所もあるし、それがあって「良い」と思える所もある。
そう考えれば人それぞれに特徴があるんだから、自分に合わないと感じた
恋人を、無理に愛する必要は無いと思うよ。』

『・・・』

『それに、過去に愛した人がいるからって、新たに訪れたチャンスを
無駄にしたらいけないと思う。確かに恋人としての認識は前の人にも
あるかもしれないけど、自分に合った人を見つけて、結ばれる事が
本当の恋というモノであり、自分のゴールなんだと思うよ?』

『飛織・・・』

『・・だから、そんなに案ずる事は無いと思う。
自分のいける限りの道を、パーッと突っ走っていくのが一番だよ!』

『・・・だよね。私、ちょっと分かった気がする。
私がどうして、あんな人を好きになっちゃったか・・・』

『・・うん。頑張ってね。
私、心菜のこと、応援するよ・・・!』

一応そうとは言ってみた。でも、その時の心菜の顔に明るさは
感じられなかった。・・・とすると、心菜が惚れた恋人は、まさかとは思ったが・・・
私はちょっと唖然とした感じで、心菜の顔を見つめた。
それでも、やはり真実は形となって返ってきた。
その数日後の、心菜との電話中だった。

『・・それで、あの人とはどうなったの?』

『・・・うん、飛織の言う通り、自分と掛け合わせてみたら
やっぱり自分の性とは合わなかったみたい・・・。』

『・・そう・・・。
折角出来た恋人なのに、残念だね・・・。』

『・・・ううん、これでいいんだよ、飛織。
私はずっと、飛織の言葉だけを信じて、生きて来たんだから・・・』

『心菜・・・こんな私で、ゴメンね。
大事な時に、力になれなかったのが惜しい位だよ・・・』

『いいんだよ、飛織・・・
同じ友達として、そこまで心配してくれただけでも、私は嬉しい・・・』

『・・・心菜・・・』

高校が違うという地域の差。離れていった私と心菜。
そのちょっとした距離は僅かな時間で生み出される「言葉」を消し去り、
「悲しみ」という形になって私にも降りかかる事となる・・・。
いざという時、心菜の前に現れて応援できない私が、惨めに思えた。


・・・私って、どうしてこんなに弱いんだろう・・・。




ふぅ・・・何か疲れました^^;
製作時間は1時間半。4時半から作り始めたので結構腕が・・・orz
大分暗めにはしたのですが、やっぱり明るめに見えますね、これ^^;
作品レベルの低さは相変わらずです・・・;;
もう駄目ってくらいにorz

2006年5月17日製作


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