バベルの図書館-或る物書きの狂恋夢
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1978年のオープン以来、35年にわたって良質なシャンソンとパリの空気を提供してきた「シャンソニエ鳩ぽっぽ」が、HPの言葉を借りれば“ステージに幕を降ろす”。モダンの正統・銀座にこだわってきたが、その長い歴史もここでお開き。 私は運良く、この閉幕ギリギリにたった一度だけ足を運ぶことが出来たが、改めて、日本のシャンソン界やファン達に少なからぬ貢献してきた名物店の心意気はさすがにパリの街角のそれ。カラッとして陽気。歌は勿論最高だ。 大きなハコで「歌」を聴くのも素敵だが、今日日でいえばクラブかスナック店に満たない広さのこの距離感で、プロの歌い手の歌に触れるということが、どんなに贅沢なことかを痛感する。 果たして、このような「豊かさ」が幕を降ろすにどんな事情があるかは判じないが、振り返るに、“生バンド”やプロの歌い手が愛着あるホームを手放す道行きは、同じような広さのハコから始まったカラオケ文化の台頭と軌を一にする。 巧くもない自分の歌に酔い、アルコールでますます鈍くなった頭で聞き流す知らぬ誰かの歌に心ない拍手を送る。あるいは、それは私的なパーティと化して、より閉じたセルへと変じていった。まさに、「歌のないカプセルホテル」が、24時間調子はずれな陶酔をくれる。そこに、パブリックに歌を味わう風雅は消えてしまった。 カラオケのすべてが否定されるべきか、それは性急だろう。音楽ビジネスは豊かにしたかも知れない。しかしまた、カラオケ依存する音楽作りという逆転現象を引き起こし、直に歌に、なにより歌い手に触れる機会を損失した。 シャンソニエ鳩ぽっぽ、ひとまず閉幕。次は、どんな場所で、どんな形で、ハートをぽっぽさせる愛の歌を届けてくれるのか、新参者の私はまだ、大きな希望を抱いている。(了)
2013/04/12
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