ロジャー・テイラーも、ルックスこそ激変しましたけど、この人歌巧いですね。驚きました。フレディ・マーキュリー欠席の分は、俺がカバーするぜ的な頑張りを感じました。その高めのキーでやや掠れる声などは、ポールよりもフレディに似ていて、あぁ、メンバーの絆はこういうところで出るんだろうなぁ、と納得。 その欠席のフレディも、映像で二曲参加。“手をとりあって”(70年代の来日時の映像。皆若い!!そして、時の流れの残酷さに自身を重ねて感傷的になる・・・)と“Bohemian Rhapsody” 。このライヴのいいところはまた、故人の映像のオンパレードで水増ししたり、余計にウェットにしないところ。これは、QUEENからポールへの敬意の表れでもあるし、またそんな細工をしなくてもQUEENを再びこの世に降臨/再現できるという自信のなせる業でしょう。 ポール。ポール。ポール・・・イイじゃないですか!!尾崎紀世彦っぽい風貌に、過剰なまでに鍛え上げたムキムキボディ(前はもっとぽっちゃりしてたじゃないか!!)。フレディを意識したステージアクションに、ピタピタの革パンにタンクトップ!!本気だぜこのオヤジ!! 先述の通り華があるんですよ。昔からイギリスのロック歌手って、アメリカの人より、ストレートにR&B的唱法をするんですよ(アメリカ人って、好きなくせに「俺はソウルはやならない」なんて言う人もいますもんね、結構。御大達はそんな器量の小さいことは言いませんけど)。で、バッド・カンパニーなポールももちろんそのクチで、コブシ回しはかなりお達者。伸びもいいですしね。声質は、中音域~低音域のレンジがフレディに酷似しているようで、“Crazy Little Thing Called Love”なんか「フレディ復活~っ」ってなイキオイ。ただハイトーンは、地声がフレディに比べて太いポールは苦しそうで、彼流のアレンジで聴かせてくれました。ポール・ロジャースってヤンチャなイメージでしたけど、やっぱりQUEENファンのことをよくわかっているのでしょうか、公演を通じて随所で滲ませるフレディに対する敬意の払い方も愛嬌と節度があって、それも絵になるんですよね(もちろん、“ポール・タイム”でのQUEENのサポートも格好いい)。 色気と男気の人ですね、この人は。ポール・ロジャースは一連のQUEENとのツアーで男を上げたのでは?このプレッシャーの中で、QUEENと共存共栄してしまったワケですから。しかも、はじめは「?」だったファンもかなりポールを評価しているんですから。 ただ、私はポールについては、テンプテーションズのデニス・エドワーズと同じような印象を受けました。デイヴィッド・ラフィンという大天才がワガママでグループを抜け出した後、コントゥアーズから引っ張り出されてテンプテーションズに加入したデニスは、自身も華があり実力もある一級のスター。そしてテンプテーションズ加入後も“Papa Was A Rolling Stone”など、ノーマン・ホウィットフィールド作曲のサイケ・ナンバーでヒットを連発し、70年代モータウンに新しい可能性を準備した功労者。 しかしやっぱりファンは、いくらデニスが頑張っても、そしていくらデニスのことを愛していても、デイヴィッドの衝撃を忘れられない。聖書なら、先に来る者は後に来るものの栄光を準備しますが、コッチは逆。実際デニス・エドワーズは、ワイルドな風貌&唱法とは裏腹に、とても謙虚な人で、脱退後人気の落ちたデイヴィッドがテンプテーションズのライヴに顔を出すと、ステージの裾から「さぁ、あなたも歌って下さい」と声をかけて偉大な先輩を立てたそうです。そんなエピソードが頭を駆け巡るポールのオーラ。 フレディは妖しい仄かな華。だからこそ、時に光よりもまぶしい強烈な輝きを放つ・・・。光と翳のコントラストが強ければ強いほど、フレディの華はより艶やかになる。一方ポールは、燦々と降り注ぐ太陽のような華。大将で、エースで四番。どちらの華を好むか。どちらの華がよりQUEENと合うか。それを問うことはナンセンスでしょうね。 ライヴ最大の盛り上がりは、アンコールから“I Was Born to Love You”(しかもブライアン&ロジャーの弾き語りアコースティック・ヴァージョン)、そして“We Will Rock You”、“We Are the Champions(この時のポールは最高!!)”、“God Save The Queen”の黄金リレー。そりゃズルいよ、これで鳥肌立たないはずがないよなぁ・・・。お約束通り、感激。ファン、総立ち&手拍子。そこは、ライヴ会場じゃない。まるで、剣闘士を待つコロシアムのごとし!! 高校時代、ロック好きの友人に、「クイーンズ・ライチ知ってる?」と聞かれて「あぁ、クイーンでしょ?」なんて答えちゃってたほどロック知らずな私のQUEENデビューは大学一年でした。はじめて聴いた“Don't Stop Me Now”に痺れたその足で、即ライヴ盤を購入したのがきっかけ。その後は、ブラック・ミュージックに造詣の深かったフレディや、そのフレディをリスペクトする孤高のソウルマン、ジョージ・マイケルの音楽性、あるいは、PVで静かに激しくフレディが舞うロバート・デ・ニーロ主演の映画『ナイト・アンド・ザ・シティ』の主題歌がプラターズのカヴァー“Great Pretender”で、オリジナルを遥かに超える数少ない名カヴァーとして聴きまくった、など間接的な文脈の中でしか接することのなかったQUEEN。