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○・。Mooncalfの絵本。・○
いつかの夢
最近二時頃からやっているシャーロックホームズのドラマの再放送をかかさずビデオにとってはご飯食べながらみてるからでしょうか、夢を見ました。 私はそのドラマにでてくる淑女のような姿をした友人に囲まれ、やっぱりドラマのように馬車の行き交う町中を歩いていたのです。友人の会話に「ここで一番エリートなのはオックスフォードのお方ね」というセリフがでてきたところからして、ここはイギリスなのだろうと、私は友人達と笑いながら思いました。 そして極めつけは恋人。シャーロックホームズな恋人・・・そう、恋人は探偵だったのです。 正確に言えば『推理のお好きな紳士』と言った方がいいのかもしれません。彼は私と同様、まだ学生の身。探偵を生業とする年齢ではないからです。 幼い頃からイギリスで暮らしてるといえど東洋出身の私と、頭脳明晰な彼。(彼は先ほど友人の話題にもでてきたオックスフォードに通っているのです!)国境を越えたという点では、いつか読んだ森鴎外の著作、『舞姫』のようだと昔から思っていました。まあ、あの物語のように悲しく、悲劇的な愛ではないけれど・・・。 そう、私は舞姫ではなく、いわゆる「いいところの娘さん」だったようでした。友人同様、淑女らしい服装をし、淑女らしい身のこなしを習い、大きな噴水を中心にかまえ、薔薇の咲き乱れる美しい学校に通っておりました。 ここは女性が教養ある、素晴らしい女性になるための学校で、当然女性が通う場所であり、男子は禁制でした。 それにもかかわらず危険をかえりみない彼はよく忍び込んで私を迎えにきては音楽鑑賞などに連れていってくれたりしました。そして今日もまた、何かおもしろいことがあるのでしょうか、私の席のすぐ隣の窓ガラスがこんこんとなったのです。(まさか・・・) 案の定彼でした。彼は知っていたのか、偶然か、ちょうど今は先生がいらっしゃらなく、自習の時間でしたので、私は窓から身を乗り出して、小声で彼に話しかけます。 彼の名前ですけれど、霞の向こうに置いてきてしまったようなので、聡明で大好きな彼に敬意を表して、今はイギリスの伝説の英雄・アーサー王の名前をお借りしてアーサーと呼ぶことにいたしましょう。「アーサー!」 彼は「静かに」と小声で言いました。「今でられるかい?」 私は軽く友人に弁解し、静かに部屋を出ました。今すぐ走って彼の所へ行きたかったけれど、私は絨毯のひかれた廊下を静かに歩きました。(いつもより早足だったかもしれませんが・・・。)いつでも、何があっても慌てない。それが淑女の基本なんですもの。
■■夕暮れの海賊■■
私の学校はそれはそれは古い学校で、初代校長先生もそれはそれは昔のお方で、私はセピア色の写真の中でしか彼にお会いしたことはないけれど、一目見て思った。 ああ、やっぱり変わってる。 ほんとに昔、まだ世界が戦争が全てだと思い込み、日本も自国の力を過信しすぎていた頃。当時の写真を見てるとだいたい男の人はきりっとしていて(口のひげがまたきりっとして見せる)、女の人は少しはにかんでいるようでやっぱり真顔。そんなご時世に、笑って写真をとる人がいるだろうか?しかもポーズ付きで。あとから聞いた話、初代校長はやっぱり周りからちょっと変わった人だと思われていたらしい。 でも私が彼を変わってるって言ったのは写真のせいではない。(写真も理由の一つにははいってるだろうけど。) 我が校のあだ名を、ご存じだろうか。「パイレットシップ」 『海賊船』なんてあだ名、普通つくだろうか。(いいやつかない。) これも初代校長のせいなんだ。 彼は大の海賊好き。海賊の航海日誌を買い続けて、生徒会長しか入ることを許されない初代校長の部屋にはその航海日誌が蜘蛛の巣をまとって眠っているらしい。(私はもちろん見たことないが知人の先輩が生徒会長だった時見たからあながち嘘ではない。)しかもその話を裏付けるかのように廊下には海賊船の写真が飾ってあるし、校庭の片隅には碇がおいてある。 おまけに奨学金「スカラシップ」制度を「パイレットシップ」制度なんて名付けたもんだから、こんなあだ名がつかないわけがない。 この学校に来て高まったものがある。それは海賊への嫌悪。 私は昔から海賊が嫌いだった。「海が呼んでる」って言って飛び出していったようだけど、そんなの日々の労働に、あるいは単調な生活にあきただけじゃない。彼らは海を自分たちの逃げ場にしたのよ。弱い生き物のくせに虚勢を張ってる。そんな奴らよ、海賊なんて。 そう常々思っていたからでしょうか。 私は図書室で三日後に控えた期末試験の勉強をしていたはずなのに。 少し眠気がして数分後目を開けたら、眼前には青い空が広がっていたのです。「え!?」 急いで起きあがるとそこは図書室なんかじゃなかった。そうたとえて言うなら船の上っぽい。なんで・・・?「あ! お頭、起きましたぜこの子!」 気づくと隣に頭にバンダナを巻いた男がいた。服装といい、「お頭」といい、まるで海賊みたいなの、やめてよね。「ちょっとあんた! ここどこなのよ!」「ここって・・・そうだなあ。大西洋のどのあたりかなあ」「大西洋!?」「あんたこそどっからここにきたんだよ」「図書室にいたはずなのに・・・」「トショシツ? そんな地名しらないなあ。あっ! お頭!こっちです、こっち!」 またお頭なんて言ってる・・・。そう思いながら男が手を振る方に目をやると、そこには赤い髪をしたこれまた海賊みたいなやつが腕を組んでいた。(うわ赤い髪・・・)「この子、記憶があやふやみたいなんすよ、お頭。どうします?」「どうってなあ」「ちょっと・・・ちょっと待ってよ。なんであんた達そんな海賊みたいなカッコしてんのよ・・・」 怪訝そうな私とは逆に、二人はきょとんとして、さも当然といった感じで声を合わせて答えた。「海賊だから」 神様。さっき海賊をけなしたからですか?こんなか弱い乙女より野蛮な海賊なんかをお守りになるのですか?「そんな・・・よりによって海賊船なんて・・・」 かちんときたのか、赤い髪の男が怒り口調で言った。「海賊船で悪いかよ! 嫌ならすぐここから蹴落として鮫の餌にしてやってもいいんだぞ」 ひぇぇ怖い。やっぱ海賊!野蛮! 私は声も出せずに心の中でだけけなした。赤髪はきびすをかえしてどこかへ行ってしまった。「あっ!待ってよお頭!」 バンダナ男は一度赤髪を追いかけたが、呆然とする私の方へ戻ってきてこう耳打ちしてまた追いかけた。「お頭は口は悪いけど、ほんとうは優しいんだよ。君を見つけて助けたのだってお頭なんだよ」「え・・・」 私はさらに呆然とした。どうしてここへ来たのか。海賊は野蛮なのかはたまた違うのか。とりあえず殺されずにはすみそうな気がするけど・・・。 無人の甲板に座り込みながら二人がいなくなった方を見ながら、海賊のくせに妙に親切なバンダナ男と、いまいちよくわからない赤髪の男の名前を聞き忘れたなあと思っていた。 私の脳裏には、なぜかあの夕焼けのような赤い髪が焼き付いていた。
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