ライフキャリア総研★主筆の部屋

ライフキャリア総研★主筆の部屋

2002年05月27日
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 東海道線や総武~横須賀線の二階建てグリーン車に乗るのが大好き。仕事で行くとき、交通費は後で払ってもらえるので、グリーン料金を自腹で切っちゃう。

 今日は新橋から千葉まで、総武快速の二階建てグリーン車の小さな旅を楽しみました。といっても、車中の40分少々ものんびりできないほど、仕事に追い詰められていたのです。

 滞っていた企画書作りの続きで、分厚い資料をゴソゴソと読み始めると……揺れ具合が気持ちよく、つい、上のまぶたと下のまぶたが仲良しに。明け方4時起きで原稿を1本仕上げ、その後、午前中に別の取材を1本こなした後だったので、無理もないかなあ。

 千葉からさらに外房線に十数分乗って、駅からタクシーでワンメーターほどのところにあるリハビリ専門の病院へ。義肢装具士という国家資格を持ったスペシャリストさんにインタビューする仕事です。

 とてもソフトな印象のステキな男性で(読んでくれてますね、Uさん!)、さすがに人を助ける仕事に携わっている人物はデキが違うなあと感動。

 大学院で物理学と数学とコンピュータサイエンスをミックスした最先端の研究をなさっていたのですが、手作りの手仕事にあこがれて、進路変換したとか。

 広い工房のようなお部屋に、様々な機械類や肌色の義足が無造作にごろんと置かれていて、最初はギクっとしましたが、話を伺うと、義肢作りは実に丁寧なプロセスを経て行われる手仕事で、患者さんへの気配りと思いやりをたっぷり注いで作られる一種の芸術品だなあと感動しました。

 切断した断面の部分を「断端」といいますが、この「断端」を収める容器のような部分をソケットといい、患者さんのサイズにぴったり合うように、石膏で型どりし、樹脂で成型していきます。

 地面と接する足の部分は、ホンモノと同じような外観に作られた既製品の部品があり、これとソケットをつなぐ金属の部分も、さまざまな材質・重さの部品があって、適宜選んでいきます。そして、外観に違和感がないように、足の形に見せる肌色のウレタンのカバーを上から装着します。



 また、切断手術後急激に断端が痩せていき、それから2か月ぐらいかけてさらに徐々に痩せていくため、その間はソケットの微調整が欠かせないそうです。

 義肢の分野の技術革新も目覚しく、以前はソケットの部分を体に密着させるためにベルトで吊り下げていましたが、最近では、皮膚にぴったり装着するシリコンと、シリコン先端のネジでソケットから外れないようにする仕組みになっています。

 話を聞きながら、もしも私のヒザから下がなかったら、こういうふうに義肢を装着するのだろう……と想像しているうちに、何だかヒザの先がチリチリとしてきて、ちょっと恐ろしいような物悲しいような気持ちに襲われてきました。

「いい義肢なら、合わなくて痛いなんてことは決してありません。患者さんが義肢に合わせるのでなく、義肢を患者さんに合わせるのです」という言葉にプライドを感じました。

 私たちが靴売り場で靴を買うとき、「いまはちょっと痛くてもそのうち伸びてきますよー」なんていい加減なことを言う店員がいるけれど、あのひとたちにはプロ意識ないなあと思い至りましたね。

 足が切断された後も、元の足が残っているような感触が残ることを「幻肢」と言うそうです。たとえば、座っているときに義肢はヒザから曲がって床に着いているのに、自分の本当の足はヒザから前方へ伸びてはえているような感じがしたりする。

 装着した義肢のほかにもう1本、元の足があるような感触だから、足元をいちいち目で確かめないことには転びそうで怖くて歩けないのだそう。

 これも一種の自己同一性障害なのでしょうね。義肢とイメージ上の足が完全に同一化するまでには、なかなか時間がかかる。断端が「自分の体の終わりの部分なのだと認識することが重要」、なのだそうです。

 言葉がリアル過ぎて、ドキリとしてしまいましたが、技術者として現実を冷静に正確に見つめる人の視線を感じました。

「先生には、足を切られた者の痛みなんて、わからないだろうよ」などと感情をぶつけられることもあるそうです。無理もないでしょう。

 そんな人も、やがて足がないという現実を受け入れられるようになるのか、あるときこんなふうに明るく言ったとか。「人間の足って、すごくよくできているもんだねえ。失ってみて初めてわかったよ。それと同じようなものを作ろうっていうんだから、先生の仕事は大変だ」



 物づくりの仕事には色々ありますが、義肢とは、それを必要とする人にとって、人間らしく生活するためになくてはならない道具です。本当に人の役に立てるすばらしい仕事だなあと実感しました。

 役に立つっていう言葉を、私たちはつい軽々しく使ってしまうけれども、本当の意味で役に立つ物って、実は意外と少ないんじゃないだろうかとしみじみ考えてしまいました。






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最終更新日  2002年05月28日 00時40分13秒


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