桜 色

桜 色

魔法-1



くすんで見える蒼いバスが

僕の涙でくすんで見える空にむかって走り出す

まるでバスが空に吸い込まれてしまうかのように



出会いは、そう今日のような

真っ赤に燃える太陽が照りつけていた日曜日



うだるような暑さに

体がどうにかなりそうだった

それでも僕等は田んぼの畦道を走り回って

追いかけっこしていた


元気よくはしゃぎまわった僕等は

汗と泥まみれの体のまま

近くの駄菓子屋へと駆け込んだ


僕等はそこで

駄菓子屋のばあちゃんと話しながら

扇風機に当たって涼んで

火照った体を冷ましていた


夏休みは毎日この繰り返し

だけど僕等にはそれで

十分過ぎるほど十分だった


毎日が夏休みだったらいいのに

僕はずっとそう思っていた




夏休みもあと僅かになった

毎日が日曜日だった僕等には関係なかったが

今日は本当の日曜日らしい

朝食の時にお母さんが


この村に誰か引っ越してきたらしい


と、僕にいった

新しい出会いが全くないこの村に

誰か引っ越してくるというのは

僕等にとって大事件だった


僕はその日みんなにその事を話すと

今からみんなでその家に行ってみよう

ということになった


それから

一旦帰って準備をしてくることになった

僕はその家までの地図を作ってくる役になった

興奮を抑えるのが困難で

お母さんのいうことが伝わらなかったので

結局お母さんに書いてもらった


集まった時

みんなも興奮していたのだと分かる

見たこともないような服に

白い布切れをマント代わりにしたり

太い木の棒を持ってきて武器だと言ってみたり


みんなそろった所で

僕が笛で合図をしてみんなを促した


ピ~~ッ!

しゅっぱ~つ!


だけどその道のりは険しい山道を通るわけでもなく

ちょっと虫がいるくらの僕等の村では

あまりに普通の道のりだった

だから家につくまでにそんなに時間もかからなかった

なんだか拍子抜けした僕等だが

その家というもの見て

この世のものとは思えないものを見たかのように

僕等は声も出せなくなった


生まれた時からずっとこの村に住んで

まだこの村からでたこともない僕等には

あまりに刺激が強すぎたのだ


真っ白な外観に

洋風の門がでっかく構えていて

まるでここから先は別世界だといわんばかりだった


みんなが動けなかった中、僕は一人

正気をとり戻すことができ

みんなに先駆けてレンガ造りの塀によじ登り

その上から家の中を見てみた


僕が見たものはテレビでしか見たことがない

ピアノというもの

そして・・・

そこに座っていた一人の女の子

その女の子は

まさに絵本から飛び出してきたかのような姿をしていた


彼女は僕を見つけると

優しく僕に微笑みかけた

それまで生きていた僕の世界が

彼女に埋めつくされた

それほど彼女の笑顔は優しく僕を包み込んだ


ワンッワンッ!

僕の世界を壊すかのように

犬が僕に向かって吼えた

みんなもその鳴き声に驚き

しりもちをつき

なんとか逃げ出した

僕はいつまでもいたかったが

一人は怖かったのでみんなを追いかけた


それが僕の君と初めて出会った日曜日


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