桜 色

桜 色

繋がっていく糸

待ち受ける未来にあなたはいなかった

いつもいたはずのあなたがいなかった

私が悪いの

あなたのことを信じてしまった私が悪いの

あなたが決めることになる運命をあなたは知っていた

そう思ってしまう

だってあなたの心を読むことは私には出来ないから

そう思ってしまう




きれい

ふとその言葉は私の口から漏れた。

見上げれば満天の星空。

ここがこの町での私の居場所だった。

町の隅の小高い山の小さな広場。


相も変わらず私は独りきりで過ごしていた。

学校で話しかけてきてくれるヒトはいた。

だけど両親がいないなんて言った日にはもうみんな他人だった。

大変そうだね

なんて安い言葉を聞いたり。

なんともいえない微妙な雰囲気をつくってしまったり。

そんなことにも、もう慣れていた。

本当に友達になってくれるヒトはいない。

いてもまたすぐに町を移り私のことを忘れてしまう。

今考えれば私に友達が欲しいなんて気持ちがないんだから出来るわけ無いんだ。

きっと、多分、うん。

私は独りでよかった。

よく近所のおばちゃんなんかに

大人っぽいね

なんていわれたけど私は辛かった。

子供でいたかった。

だってまだ子供なんだから。

このかけがえの無い時を普通に過ごしていたかった。

だけど、


こんばんは

私の体は小さく飛び上がった。

ふいをつかれて驚いただけじゃなく、私の世界に一瞬入ってきたかのようだったから。

こ、こんばんは

あの人は私より随分大人びて見えた。

そして優しい目をしていた。

そう。

そのときはきっと。


何してるの

え、えっと、星を眺めてたの

ふーん

沈黙が二人を包んだ。

君もここ好きなの

好きって言うか、ここが私の居場所だから落ち着くって言うのかな

ふーん

なんだろう、この声どこかで聞いたことがある気がする。

ねぇ、もしかして私のこと知ってる

当たり前でしょ、同じクラスだもん

えっ、ごめん まだ良く覚えてなくて、

そうなんだ じゃあ覚えてよ

自分の名前は、



それから延々と自己紹介は続いた。

なんだか慣れてない状況下に体がむずむずした。

一区切りついたみたいで私はあの人に訊いてみた。


ねぇ、私の両親小さい時に死んじゃったって話知ってる

知ってるよ だって有名だもの


あの人は笑いながらそう答えた


自分も両親いないし


あの人はこうも言った。

都合が良すぎるなんて誰もが思うかもしれないけど仕方が無い。

だって運命だもの。

しょうがないでしょ。

それっきりもうその話題には触れないようにした。


それから二人は星空を眺めた。

ただただ眺めていた。

時々、 きれいだね なんてつぶやいて。

ただ私達よりちょっと向こうに広がる星達を眺めていた


あの人がそろそろ帰るというから訊いてみた。

あの人が立ち上がってどこかへといってしまおうとする時に。

そうあのことを。


あなたのこと信じてもいいの

好きにすれば


あの人は優しく笑いながら答えた。

あの人の笑顔はちゃんと私を見ていた。

始まらなければ良かった。

今思う。

全てが終わってしまった今。

出会わなければ良かった。


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: