借りた車 シーン1


そう呼んでいるちょっと年代物のV8エンジンを積んだマスタング
色は、オレンジに黒のセンターライン。
 まるで映画の中でバートレイノルズが乗っていそうなご機嫌な
「荒馬」・・こいつ少しクセが悪いとこがある。
んっ?燃費って、そんな事は解かり切っている。そうじゃない
寝起きが悪いのである、優しく髪をなでながらKISS、
そんな起こし方をしないと臍を曲げてしまう。
 巷のおねぇちゃんより扱いにくい・・・
 キーをさしこむ、ここで一気には回さない髪をなでるように
電気を優しく流し機嫌を伺うのである。あせっては、いけない
良い女を思い通りにするには、それなりの手順が要るものである
そう、間違っては、いけない手順があるのだ・・
 アクセルを2回踏み込むそう、2回目は、半分だけでいい
ここで大事なのは、祈りである。「明日もまた日が昇るように
今日ここでエンジンが掛かります様に」・・・・
ここで、一気にキーを回す、セルモーターが回りビッグブロックが
唸りを上げる。
 大きく車体がゆれる・アクセルを少し踏み込んでみる
少し不機嫌そうにばらついた回転が気になるがすぐに
お決まりのドッドッド、お腹に来るこの低音、
酒焼けしたハスキーなおとなの女みたいだ、
体が温まってくるまで、そのまま、そのまま
ヒートゲージが C から少し上がるまでじっとまって・・・
その頃には、夜の酔いもすっかり抜けて、
コーヒーも味わいながら飲んでいる彼女、そんな雰囲気になってから
一度アクセルを踏み込む、タコメーターがアクセルについて
ピンと跳ね上がる。やっと扱いも覚えてきた新しい彼女
でも、今日まで・・奴に返さなくてはいけない、
扱いに困ったはじめは、「こんな奴!」と思ったが、
すっかり扱いも覚え、クセさえも可愛いと思えてきた矢先催促があったのだ。
 苦労した女ほど、離れがたいものだと昔誰かが言ったっけ。
笑って聞いていたあの頃が少し恨めしい。



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