little*life

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ミー


前日夜から呼吸困難、吐血を繰り返した。
主獣医はお葬式で遠出しているとの事。
他の病院にも色々電話した。
しかし日曜の夜、繋がる病院は少なく唯一繋がった病院では
「今日は色々動いて疲れているもので…」
と絶望的な返答。
急患は随時募集と言う病院の留守電は
『当院でワクチンをされた方が優先…』
と言う電子音が流れる。
諦めて見守る。
傍に居れば居るほど容態が悪くなる様だった。
遠巻きに、しかし心は寄り添うほど傍で見守った。

月曜日の朝、いつもの道が遠い。
やっと着いた先生から出た答えは
「楽にしてやろうや」
つまりは安楽死。
オイラにミーを殺す判断をしろと。
そんな事は出来る筈もない。
出来てもお父さん、弟にも会わせてやりたかった。
息も絶え絶えなミーをまた家に連れて帰った。
一言も話さず。
話す音でさえ、ミーには負担になるのではないかと。
ミーの呼吸音が聞きたいから。
口を開くと泣いてしまうから。
長い、遠い家に着いた時すでに息をして入るかしていないか程だった。
そして息を引き取った。
静かに、ゆっくり。
セミが五月蝿く鳴く家の居間で。

暫く泣き、体を綺麗にしてやった。
ガリガリに痩せた身体は、濡れると更に細くなり痛々しい。
身体を洗うのはミーが好きだった牛乳石鹸。
良く泡を舐めていた
洗った後はドライヤー。
音と風が怖くて猫パンチばかりしていたドライヤー。
「こんな時に出来るとはなぁ…」
お母さんが呟く。
奇麗になった身体から形見にひげと毛をもらう。
ミーらしい茶色と白の毛を。
ダンボールに横たえ腐らぬよう氷を入れる。
これで冷たくなる。
今にも動きそうなのにピクリともしない。
頭を撫でても鳴きもせず、手を握っても爪を立てず、鼻を小突いても目を閉じない。
その夜、ペアペンダントトップに日を刻み入れる。
9/12 2005
2枚とも。
最後に頭を撫で鼻を小突いてやった。

9月13日、火葬。
山奥の山奥に火葬場はある。
ひっそりと、静かな場所。
とても天気が良い。
天に昇るミーも迷いはしないだろうね、とお父さんに声を掛ける。
「あぁ…」
と声を殺しながら答えた。
最期のお別れをして火を付ける。
轟々と音を立てながら燃えていった。
外に出ると真っ黒な煙が天高く舞い上がっていた。
「きっとな、あいつは生意気だから神様に「あんたは誰にゃ!!」とか言って猫パンチしとるよ」
と皆で笑う。

数十分後骨になった。
細くて脆い骨だった。
肺ガンだった部分の骨は特に細かった。
骨壷に一つ一つ入れていく。
すべて。
残さぬように。
家に連れて帰るために。
最後にペンダントトップを。
そしてミーの首輪の鈴を通す。
「お前とオイラは一心同体だからの」
すべてが終わった。
暑い暑い日だった。


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