妖精のいたずら

妖精のいたずら

つれづれ草・・・第五章・・・


         「信頼」

 小夜子と彼女はいかにも『親しいです』モードでおしゃべりに夢中になっている。 取り残されている俺は所在なく二人の会話の終わりを待っていた。
「あっ!ごめんなさいつい懐かしくて・・・  すいません」
「どうでもいいけどさ、お前達どうなってるの?」
小夜子が両手で拝むように「ヒデ ごめんねつい懐かしくて。 だってひさしぶりなんだもの。 ついね・・・」言いながらまた顔を見合わせてニコチャンマークしてやがる。
「そんなのは後にしてくれ いまは仕事に来ているんだぞ!」
「わかってるわよ そんな事ぐらい!」俺をにらみつけながら言いやがった。
その仕草は昔とちっとも変わってない。  おかしくなりそうだ。
「ところでヒデくん。彼女知ってるの?」
「いや、あの『堂本』の所から来た姉ちゃんだということしか知らん」
「あんたらしいわねまったく・・・。  彼女ここの社長のお嬢さん!」
「なに? 」思わず彼女に振り返ってしまった。「冗談だろ? 」
「すいません」素直に頭下げやがった。からかってるのか?
「詳しいことはまた教えてあげるから連れて行ってあげてね。 それに彼女使えるから・あなたより出来るかもしれない」
「どこが?」言い返す俺を小夜子はいたずらっぽくウインクしてエレベーターに向かって歩き出した。
納得行かない顔をしながらついていく。ばたばたと慌てて付いて来る音が聞こえる。(大丈夫かよ?ほんとに使えるのかよ?)小夜子の言うことは今まで間違ったことはなかったが今回だけは怪しいもんだ。それに、ここのお嬢さんだと冗談ももう少しうまく言え!
不安げな俺をよそに二人はまたおしゃべりを始めやがった。
「えへん」俺にきずいたか、おしゃべりをやめて静かになった。
ドアが開きガラスで区切られた各部屋を通り過ぎながら俺はこれからのことに神経を集中し始めた。
  『企画準備室』  そうかかれた部屋の前で小夜子が俺を見た。  
片目でウインクして見返すとうれしそうな笑顔を返してきた。
そう、昔の俺達だけの合図だ。!   ノックをしてドアを開ける。
「失礼いたします。須藤サービスの『片岡』と申します。」「この度御社のイベントのお手伝いをさせていただきます。 よろしくお願いいたします。」
なぜか冷めた視線を感じながら室内を見渡す。
「室長様は?」名詞を片手に相手を探す。 やる気があるのかわからん態度が蔓延してやがる。一番俺がむかつく場面だぞ・・・。
「すいません室長の室田です・・・。」
「須藤の『片岡です』よろしくお願いします」
型どおりの挨拶をした後また、プレゼンの再確認に入った。
一通りの話が終わってみたが反応がない。〔どうなってるんだ?)
恐る恐る聞いてみた「おのー何かご質問は? 修正点はありませんか?」
「うん、?いいんじゃない任せるから」なんだこの態度は?
やる気より覇気さえ感じられないぜ。
「どういうことでしょうか?何も疑問点はありませんでしょうか?」
「いいよ適当にやってくれれば」
「それってどういうことですか?」 
「難しく考えなくていいの!気まぐれで作った企画なんだから・・・」
室長はおどおどしながら視線をさまよわせたままだ。
他のメンバーは人の話など関係ない態度で勝手なことをしている。
「それでは私どもはどのようにしていけばよろしいのでしょうか?」
「とりあえず 適当にあんたの提案道理にやってくれればいいから・・・失敗しても関係ないから俺達には・・・。」
一瞬「ムカッ」とした。  隣にいるあいつが何か言い出そうとしたのを俺は
目で制して座らせた。 おかげで冷静になれた。
「わかりました。では、これからの進行はすべて私どもの独断で進めさせていただけると判断させていただいてよろしいということでございますね?」
「それではその項を明記した書類を改めてお持ちさせていただきます。
そこに皆様お一人づつサインをしていただきますのでよろしくお願いいたします。」言いながら書類を整理し始めた。
「チョットまてや 何で俺達一人ひとりのサインが必要なんだ?」
「えっ? それは当然のことではありませんか? 私どもの提案道理に進めていいと言われましたがそれには皆様の同意が必要ですので・・・。企画室全員の総意で私どもにお任せいただいた確認ですから・・・。」
「そんなことはできん」 責任逃れか・・・。
「困りましたねー。皆様の同意書がなくては私どもは勝手に進められませんので・・・」 
「ふざけんなよ!どこの世界に全員の同意書が必要なことがあるんだよ? おまえ なめてんのか?」
「別になめてるとかいってませんが?」
「 たかだか下請けの分際でいきがるんじゃねえぞ!」
(来たぞ!)この言葉が一番面白い、大企業の殺し文句と勘違いしている馬鹿が使う言葉だ。  ここからが俺の舞台だぜ興奮する。
(あれ?令嬢さんうれしそうな顔して俺を見てる。わかってるのか?)まあいい主役のおれの登場だ!
「わかりました。 申し訳ありませんでした。君 書類を回収してください」
あいつは言うより早くもう回収を始めていやがる。 (参ったなぁ読んでるのか俺を・・・)
「では、このイベント企画につきましては同意を見なかったことで白紙とさせていただきます。ありがとうございました。」
二人そろって騒ぐ企画室をさっさと出てきてやった。
廊下を歩きながらあいつの顔を見た。親指を立てていやがる。わかってるじゃないか。(それにしても、小夜子の感は間違ってないかもな)
エレベーターの中で「頭きますねあの人たち・・それにしてもこんな事して平気なんですか?」不安そうに俺を見つめている。
「平気なわけないだろ。これからがホントの仕事になるんだよ」そういいながら俺はうれしさを隠しきれない。(ひさしぶりだぜ、こんな刺激は・・・。)
訝しげに俺を見ながら相変わらずばたばたと付いて来る。
「おまえ、社長令嬢か知らんがここまで首を突っ込んできたからには覚悟して来たんだな  付いて来れるか?」
「・・・はい、行きます。」
「わかった この企画収めるまで連れ回すからな。覚悟しとけ!」
「はい、信頼を裏切りません」
(ほうそこまで言い切るか!)どこまでやれるか見させてもらうよ令嬢さんよ
玄関先で企画室の馬鹿がうろうろしているようだ。

これはおまえの仕業か?・・・小夜子
またおまえに振り回されるのか?
そんなことを考えながら車に乗り込んだ。







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