妖精のいたずら

妖精のいたずら

つれづれ草・・・第十二章・・・


           「出会いと別れ」

 いつものように朝が来ている。
 いつもと同じ俺がここにいる。 いつもよりひどい二日酔いと、どこかに穴が開いた感じだけがいつもと違うようだ・・・。
痛む頭を押さえつけながら今日も、いつもと同じように仕事へと向かう。
今日も変わらず暑くなりそうな天気に思わず(いい加減にしろよ!)と勝手に文句を言いながら車に乗り込んだ。
キーを差し込んで思わず助手席を見てしまう。 昨日の名残のようにあいつの香水の香がまた車に残っているのだ。 やりきれない苦いものが出てくるのを無理やり飲み込んで思いっきり車を発進させていく。
 会社? そういつもの通り机にうつぶしたまま、ただいつもの通り時折書類に目を通していた。
「おはようございます!」 いつもより元気な声で彼女が入ってくると続くようにみんなが入ってきた。
とたんに会社の中が賑やかになる。 いや、うるさい・・・!
今の俺にはたまらないうるささだが文句を言えば倍返ってくるのは分かっている。 こんなときは無視するに限る。 それにしても、よくしゃべる連中だ。
「おーい、小野! 金曜日の事教えろ! 社長とはどうなった?」
「えっ? あっはい! 」おしゃべりの輪を抜けて俺の前に来たが「わっ!すごいお酒臭い!」また騒ぎ出しやがって、手近な書類で扇ぎ出しやがった。
「くだらない事してないでさっさと話せよ」
「はい、でも平気ですかそんなで?」 「かまわねーからはなせ!」
「分かりました。 社長はとても喜んでくれました。 ぜひ、この話進めるように企画部に言うそうです。 今から、どう話すのかとか何を着るんだとかえらく乗り気になってました。 楽しみにしていると言われました。」
「そうか。 じゃ、 そのときはお前も一緒に出るんだぞ!」
「えっどうして?」「あたりまえだろ!コンセプトは『親子の何とか』だろが
それもお前が考えてきた事だろう。 だから、社長が出る事はお前も出る事なの!わかったか?」 「あっそうでしたね」
(まったく何を考えているんだこいつは? 自分の事だろうに)こいつと話していると余計頭が痛くなる。
「それより、小夜子さん今月でやめちゃうんですって知ってましたか?」
「ああ、おととい一緒にいて話を聞いた。」 「えっ? 一緒にいたってどういうことなんです?」 「そのままの意味だ。」  「それって・・・」
「一緒にいたらいけないのか?」「いえ、そうじゃないですけど、何故いっしょに?」 「俺たちは俺たち。お前には関係ないことだ!」
不安そうな顔をしたまま立ち尽くす彼女を無視して立ち上がろうとしたとき、
『ガッチャーン』  大きな音と共に一人の若者が唖然とする社員を尻目に俺の前に現れた。
「なんです、あなたは?」 「うるせい?」気丈にも立ちはだかっていた彼女を押しのけて俺の胸倉につかみかかってきた。
「おい!なにやってんだよおまえは!お袋の事、 ほかのやつに取られてもいいのかよ?」
寄ってきた彼女を片手で突き飛ばしながら叫んでいるのは息子の健二だった。




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