売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

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2025.06.12
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​私をスカウトしてくれた松屋元社長古屋勝彦さんの身内のお通夜の帰り道、たまたま最寄駅のホームで電車待ちをしていた元部下ふたりを見つけ、そのままふたりを連れて飲みに行きました。ひとりは現在銀座本店長執行役員、もうひとりはMD戦略室長執行役員、ふたりとも女性です。オーナー経営者のお通夜、その思いを彼女たち幹部女性社員に伝えておかねばと思ったからです。


ありし日の古屋勝彦社長

「松屋を変えて欲しい」と古屋さんからミッションをもらって1995年に松屋入りした私は、その4年後の創業130周年事業が一段落したタイミングで大改革の必要性を説いたレポート「140周年は来ない」に辞意表明を添えて社長室に届けました。個人的には創業130周年が納得行かなかったからです。そのレポートを読んだ古屋さんからすぐに呼ばれて私は社長室に入りました。

いくつかの改革案の第1項目は「もっと女性社員を活用すべき」でした。当時バイヤーのほとんどは男性社員、ブランド編成にしても売り場マネジメントやお客様サービスにしてもこれからの百貨店には女性目線がもっと必要であり、女性社員を抜擢すべきと提案しました。古屋さんは「なんならバイヤーは全員女性にしようか」と言ったくらい私の提案に賛成してくれ、バイヤーやアシスタントバイヤーに多数若手女性社員の起用が決まりました。

誰を起用するかを人事部と協議する中、例えば婦人靴部門には靴メーカーのサンプルサイズにぴったりの足サイズの女性社員を探そうとなり、人事部から「現在浅草店のブランドショップで販売しているOさんはどうでしょう」と具体的な名前があがりました。社内バイヤーゼミでは受講生に「お取引先の展示会に行ったら、商談するだけでなく商品サンプルを着る、あるいは履くことが重要」と私は教えてきましたから、婦人靴部門にはサンプル靴が履ける女性が必要なのです。まるで童話シンデレラみたいな話でOさんの異動は決まりました。

このときの人事異動で化粧品、ランジェリー、婦人服、婦人靴担当バイヤーやアシスタントバイヤーの女性社員が一気に登用され、しかも女性社員に着用が義務付けられていたユニホームを廃止、私服で勤務することが初めて許されました。中にはキャミソール姿で出勤してくる女性社員もいたようで、ユニホーム廃止直後はいろんな意見が出たそうです。

2001年の大リニューアル開店時、若い女性のお客様を対象にしたブランドミックスの自主編集自主販売セレクトショップを2階にふたつ、3階にひとつ、4階ハイエンド雑貨売り場にもひとつオープン。このとき2階セレクトショップRita's Diary(現在は3階エスカレーター前)を担当したバイヤーが現在の銀座本店長です。

彼女には店舗設計会社のお決まりのショップ什器だけでなく、仮想「Ritaちゃん」の部屋を連想させるようなアンティーク家具を什器として使ってみてはとアドバイスしました。「タオルやソープを扱うのであればマリリンモンローが映画シーンに出てきそうなバスタブを什器にしてはどうだ」と言ったので、売り場にはドアが壊れそうなクローゼットや1960年代を感じさせる古いソファが登場。ショップ名Rita's Diaryも彼女たち現場の若い女性社員たちが決めたものです。

化粧品のバイヤーは計数管理部門から、同アシスタントバイヤーは人事部門から抜擢、「君たちは化粧品メーカーに行って売上予算や売り場面責の話なんぞするな。そんなものは上司の部長がやればいい。美白化粧品であれば、どういう成分が美白に有効なのかを徹底的に訊いて来い」と言いました。

就任3ヶ月後私はふたりに呼び出されました。「松屋のバイヤーは商品の話しかしない変人とメーカーさんに言われていますが、このままで良いのでしょうか」と相談されました。もちろん私の答えは「そのままずっと変人のまま行け」でした。いかなるジャンルであれ商品を十分に理解してお客様に提案するのがバイヤーの役目ですから。


お通夜のあと一緒に飲みに行ったふたりには、当時女性のバイヤー起用を決断した古屋社長とのやりとり、「バイヤーは全員女性にしようか」と発言した社長の思いなどを話し、「きみたちは執行役員を務めているんだから後輩の女性社員の目標になれるよう役員らしい仕事をしてください。ときには身体を張って役員会で反対意見を述べるくらいの覚悟を」と励ましました。

多くの女性客を相手にするファッション流通業やコスメ業界の株主総会、ステージに上がる役員の大半はいまも男性、しかもその多くはお世辞にもオシャレとは言い難く、いまだ日本では女性登用が欧米のようには進んでいません。​女性登用が進んでいないと報道番組で企業批判するテレビ局だって同じ、女性幹部はまだまだ少ない。だから今年のビッグニュースになっているフジテレビ問題は起きるのではないでしょうか。


リニューアル後の松屋銀座



企業には育児を終えて職場復帰した優秀なママさん社員がたくさんいますし、育児のために一時期職場を離れ復帰後は変則出勤のままの女性も少なくありません。近未来彼女たちがどんどん幹部として登用され、株主総会のステージの女性幹部比率が欧米並みに増える日が来ると日本は本当の意味で先進国になるのではないでしょうか。

今日のニュース、スイスのシンクタンク「世界経済フォーラム」が発表した「男女格差(ジェンダーギャップ)報告」。世界148カ国の男女平等度ランキングで日本はなんと118位、今年もG7(先進7カ国)で最低でした。不名誉なランキングと政治家も企業経営者も受け止めねばなりませんよね。

テレビ解説者としても有名な東京大学経済学部名誉教授伊藤元重さんがある経済界のパーティーで「日本は人口の半分を使っていない。これが日本経済成長の妨げになっています」と挨拶されたときのことを思い出します。優秀な女性はたくさんいます、どんどん落ちぶれていく日本は積極的に彼女たちを活用すべきです。





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Last updated  2025.06.12 12:20:50
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