売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

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2025.07.12
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前々項でヒット作の続編製作ハリウッド映画に触れましたが、今日はその続きです。

​​​​​​​​高校時代、学校の授業を抜け出しては名古屋に出かけ、ロードショー館でたくさん映画を観賞しました。館内売店で販売していたカタログを集め、帰宅したら映画一覧表に映画タイトル、監督、主演俳優の名前を書き込み、映画雑誌「スクリーン」をめくって次の映画を探す、それなりの映画マニアでした。

以前からことあるたびに申し上げているのですが、映画産業とファッション産業は似ている部分が多々あります。

どちらも一般生活者の情緒や感性に訴えるビジネス、人によって受け止め方がかなり違うのでビジネスとして簡単ではない。映画が優れているか否かは興行収入や売上金額が多いから「良」というわけではありません。興行的に大ヒットはしなかったけれど各国映画賞を総なめにした映画史に残る秀作があるように、ファッション産業でも爆発的に売れはしなかったけれどモード史に残るデザインはあります。映画もファッションも売上だけが価値基準ではないと思います。

官民投資会社クールジャパン機構社長のとき、ハリウッドの映画界で字幕スーパーや多言語に吹き替えに特化したポストプロダクション最大手企業を買収する話がありました。ハリウッドの大手映画配給会社のほとんどと密な関係にあるこの会社を通じて日本の映画やアニメを海外市場にもっと拡販できるはず、クールジャパン政策を推進するにはピッタリと考えました。

買収交渉のためハリウッド出張した際、わが投資チームの主要メンバーと先方の幹部たちとのディナーで先方のCEO(最高経営責任者)と私は隣の席になりました。投資の話はうちの同行メンバーに任せ、ディナーの間CEOと私はずっと映画の話をしました。

ディナーの冒頭、私は彼に質問。「AFI(American Film Institute 映画製作者を教育し米国映画芸術の遺産を顕彰する団体)が選ぶ20世紀のトップ100にアカデミー賞作品賞の映画を抑えて「市民ケーン」がどうして第1位に選ばれたのか、その理由を教えて欲しい」、と。


AFIトップ100第1位「市民ケーン」

AFIが選ぶ20世紀トップ100映画の上位は、
1位「市民ケーン」1941年オーソン・ウェルズ監督
2位*「カサブランカ」1942年
マイケル・カーティス監督
3位*「ゴッドファーザー」1972年
フランシス・F・コッポラ監督
4位*「風と共に去りぬ」1939年ヴィクター・フレミング監督
5位*「アラビアのロレンス」1962年デヴィッド・リーン監督
6位「オズの魔法使い」1939年
ヴィクター・フレミング監督
7位「卒業」1967年マイク・ニコルズ監督
8位*「波止場」 1954年エリア・カザン監督
9位*「シンドラーのリスト」1993年
スティーヴン・スピルバーグ監督
10位「雨に唄えば」1952年ジーン・ケリー、スタンリー・ドーネン監督
  (注)*印はアカデミー賞作品賞受賞

そこから話がどんどん弾み、私たちは投資の話はそっちのけでずっと映画談義、そのうちディナーは終わりました。あとで同行者から「どんな話をしてたんですか?」と訊かれたので、「投資の話は君たちに任せた。こっちは映画の話をしながら彼の人柄を探ってたよ」。それが投資のプロではない私の役割でしょうから。

まだご覧になっていない方はぜひオーソン・ウェルズ監督「市民ケーン」をアマゾンプライムか何かでご覧ください。ハリウッドの映画専門家が選んだ20世紀のベストムービーです。

この「市民ケーン」(アカデミー賞作品賞にノミネート)は地味なモノクロ映画。これまで続編が何作も製作された「スター・ウォーズ」「ジュラシックパーク」「パイレーツ・オブ・カリビアン」「ミッション・インポッシブル」「ロード・オブ・ザ・リング」「ハリー・ポッター」などとは比べられないくらいの興行収入でしょう。ビジネスとしては続編連発の娯楽大作に勝てませんが、米国映画史上に残る不朽の名作として映画専門家の間で評価は高いのです。

ファッションも同じ。ブランド売上金額だけを比べたら、ZARA、H&M、ユニクロやGAPはすごい存在、パリコレやミラノコレのトップデザイナーは売上では絶対にかないません。しかしトップデザイナーたちは世界の衣生活を牽引、ときには大手アパレルや百貨店プライベートレーベルがコピーあるいはヒントにするトレンドを発信してきました。だから同じ視点、同じ土俵で大手企業とデザイナーブランドは比較できませんし、比較する意味もありません。

映画もファッションもそれぞれの時代の社会背景や生活価値観の変化、世界の政治経済動向や文化芸術の潮流に大きく左右されます。突然人気に火が付いたり消えたりします。映画ファンに人気があっても専門家との評価に乖離があって映画賞を逃がす映画もあれば、予想外に作品賞を受賞するケースもありました。

ファッションブランドも絶好調と思っていたら突然人気急落というケースがあり、ファンだったお客様が突然ブランドから離れていくこともあります。シックで都会的クールなデザインがトレンドの中核と思っていたら、突然牧歌的なカントリー調が台頭することもあります。時代の流れに左右され、人間の情緒や感性は急変するのでブランドが永遠に輝き続けるというのはレアなこと。

映画もファッションも、なくてはならない生活の中での必需NEEDSではありません。そんなものなくても通常の生活に支障ありません。映画は見たい、ファッションは着たい必欲WANTSの領域、人それぞれの情緒産業。人々の胸に感動をもたらす何かがあれば消費は生まれ、ファンは増えます。また、とんでもない興行収入を上げること、ものすごく売れるものを作ることが重要ではないとも言えます。

長い間ファッションビジネスで働いてきましたが、デザイナーに「もっと売れるものを作って欲しい」と言ったことはありません。「あなたの信じるものを作って」とはよく言いますが....。プロデューサーが興行収入だけを意識して旧作の続編ばかり作らされている最近の映画監督、ちょっと気の毒ですね。


AFI TOP100にも選ばれた「シンドラーのリスト」

ところで、私は過去のアカデミー賞作品賞候補作のリストを作り、内外大型DVD店で映画コレクションするマニアですが、個人的に最も感動したベストムービーはAFIトップ100上位にもあげられた「シンドラーのリスト」(1993年スティーヴン・スピルバーグ監督)、ショックでしばらく映画館の席を立つことができませんでした。

続いて、青春映画「アメリカングラフィティ」(1973年ジョージ・ルーカス監督)と「おもいでの夏」(1971年ロバート・マリガン監督)、大好きな女優フェイ・ダナウェイの「俺たちに明日はない」(1967年アーサー・ベン監督)、そして前々項で触れた反戦映画「ジョニーは戦場へ行った」(1973年ダルトン・モランボ監督)が私のお気に入りトップ5です。


リチャード・ドレイファスの出世作「アメリカン・グラフィティ」


ジェニファー・オニール主演「おもいでの夏」


実在強盗事件を映画化した「俺たちに明日はない」 ​​
​​


「ジョニーは戦場へ行った」

そのほか映画館やテレビ放送、DVDで何度も繰り返し鑑賞した映画は「ゴッドファーザー」(1972年フランシス・F・コッポラ監督)、ケネディ大統領暗殺事件の「JFK」(1991年オリバー・ストーン監督)、1924年パリ五輪に出場した英国陸上選手たちを描いた「炎のランナー」(1981年ヒュー・ハドソン監督)、スティーブ・マックイーンとフェイ・ダナウェイ共演「華麗なる賭け」(1968年ノーマン・ジュイソン監督)、エンニオ・モリコーネの音楽が素晴らしい「ミッション」(1986年ローランド・ジョフィ監督)。

アカデミー賞作品賞や候補作もあれば、ただの娯楽映画もあります。皆さんがこれまで観た映画のベスト5は何でしょう。

ちなみにアパレル企業で10年間務めた新卒採用最終面接では「あなたの人生ベストムービー、それを選ぶ理由を答えてください」が唯一の質問でした。映画のタイトルは何でも良かった、その理由を簡潔に述べた学生さんは採用、長々と説明する学生さん(中には感想でなく映画のストーリーを話す人も少なくなかった)は不採用。

男子はどういうわけか難解な「時計じかけのオレンジ」(1971年スタンリー・キューブリック監督)をあげ、女子はフランス映画「アメリ」(2001年ジャン=ピエール・ジュネ監督)と答えた学生さんが多かったです。






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Last updated  2025.07.14 08:20:55
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