売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

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2025.08.23
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カテゴリ: ファッション
​​数日前、経済産業省の新興企業への支援プログラムでお邪魔した神宮前の小さなアパレルメーカー、参加者全員が揃う前に代表者Tさんに「前職はどちらの会社ですか」と質問したら、「東京モード学園を卒業してセブレの大田記久(のりひさ)さんのところに就職しました」。

セブレ、大田さん、いやあ懐かしい。ファッションメディアの間で大変支持者が多かったファッションデザイナーの名前を久しぶりに聞いてうれしくなりました。皆さんは「セブレ」ご存知でしょうか。

大田記久さんはニットメーカーなどで企画の経験を積み、1986年デザイナーブランドデビュー、当時のCFD東京コレクションでは実力ある新人デザイナーとして注目され、1988年毎日ファッション大賞新人賞を受賞。しかしながら、2002年53歳の若さで亡くなりました。その告別式でCFDアドバイザーだった三島彰先生が「訃報でオオタと聞いたときはキミが亡くなったのかと勘違いしました」とおっしゃったこともあって私には記憶に残る告別式です。



1988年毎日ファッション大賞プログラムより

私がCFD事務局長として東京コレクションを運営していた頃、代々木体育館横の特設大型テントに搬入あるいはショー後に搬出する際、大田さんは事務局プレハブに「お世話になります」「お世話になりました」とキチンと挨拶なさる方でした。事務局に挨拶せず搬入してリハーサルするブランド、ショー終了後会場や楽屋をろくに掃除せず搬出するブランドも少なくなく、セブレはデザイナー本人が事務局に挨拶してくれる数少ないブランドでした。

企業内デザイナーとして長く苦労した大田さんの人柄なのでしょう、ライバルデザイナーの悪口を言わない、年齢や役職に関係なく誰にも優しく接する、例えるなら仏様のような人。だから多くのメディア関係者やモデルからは愛されていました。

セブレで思い出すのは韓国ソウル市でのファッションショーです。

当時日韓交流に尽力していた韓国プロデューサー李載淵さん(故人。モデルエージェンシーModel Line代表)の招きでセブレがソウルでファッションショーを行ったときです。そのリハーサルで韓国人モデルたちは全員ブラを着用していました。セブレはタイトフィットのニット作品が多く、ブラを付けるとどうしてもその線が表面に出てしまいます。演出家木村茂さんが服を綺麗に見せるためにブラを外して欲しい、パリコレではみんなノーブラでランウェイを歩くと説得します。


​​ソウルコレクション創設立役者の李さん​



その後李さんはじめデザイナーやメディア関係者、政府役人らが力を合わせて韓国にもCFDのようなデザイナー組織を設立、その半年後にソウルコレクションはスタートしました。その直前までモデルがブラを外す外さないでひと悶着あったくらい、韓国はまだファッション後進国でした。

あの頃北朝鮮との緊張関係もあってか韓国経済はいまのように発展しておらず、ファッション業界への国民的関心は決して高くはありませんでした。
韓国政府が韓流ドラマやK-POPを国策として育成支援する環境でもなかったのです。


​3月東コレ参加した韓国デザイナー​


しかし、21世紀に入って韓国政府は輸出ビジネスとして映画、音楽、ファッションなどいわゆるコンテンツ産業に力を入れ始めました。気が付けば世界各国の映画賞、映画祭で韓国映画は高く評価され、若いミュージシャンは世界で大人気、欧米ラグジュアリーブランドのアンバサダーに指名されるようにもなりました。韓国のカジュアルブランドは最大の市場である中国で日本ブランド以上に目立ち、
韓国コスメは現在人気急上昇中です。

支援プログラムの打ち合わせの帰り道、久しぶりに耳にした名前からいろんな思い出がよみがえりました。たかがファッションショーでモデルたちがブラを外した話なんですが、当時の時代空気と現在の韓国コンテンツ産業の世界ポジションを考えると果たして日本はあの頃から進化しているのかどうか。

そもそも今回の新興企業支援プログラムは経済産業省旧クールジャパン課が今年からコンテンツ産業強化のために始めた試み。政府がクールジャパン戦略担当大臣を新たに任命してからすでに12年経過しましたが、政権交代のたび力の入れ方が変化し、韓国のような目に見えた政府支援の成果は上がっていません。クールジャパン政策をお手伝いした者としてはそのことが非常に気になります。





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Last updated  2025.08.24 15:40:53
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