九蝶

九蝶

2010/12/08
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指が沈む。

このまま食い破ってしまえたら良いのに。

皮膚を貫き。

お前の温もりを余すことなく感じることが出来たなら、

どんなに幸せだろうと考える。

だけど思いとは裏腹に、

お前の喉は確かな弾力を伝えるだけだ。

流れる涙。

溢れる唾液は、



これで良い。

これで良いんだ。

生きることに疲れ、

絶えず終わりを望むお前にしてやれること。

俺がしてやれること。

ふいに開いたお前の口に。

ためらうことなく口付けた。

舌を絡ませ、

お前のすべてを絡め取る。

溢れる唾液は、

かすかに優しいミルクティーの香り。



痙攣する腕が滑り落ちた。

幕引き。

あまりにあっけない最後に少しだけ戸惑い。

まだ暖かいお前の小指を握った。


俺も、逝くから。




農薬。

これを飲めばもう。

後戻りは出来ない。

ちらりと頭で考えて、

かぶりを振って否定する。

俺もお前も、とうに戻る道なんてないんだ。

苦笑して、

もう一度お前の青ざめた顔を見る。


もうすぐ、逝くから。


右手を掲げて、一気に中身を飲み干した。

痙攣する。

視界がぐるぐる回る。

何度吐いたかわからない。

焼け付く喉を掻き毟り、

仰け反ってシーツを引き裂いた。

やがて薄れゆく意識の中で。

ただお前のことだけを考える。

一緒だから。

五月蝿い耳鳴りを掻い潜り、

お前の声が聞こえた気がした。

だからもう、大丈夫。

一緒だから大丈夫。

たとえ行き着く先が地獄でも。

ほら。

目蓋を閉じれば紺碧の闇。







この詩は3つの視点から捉えたショートストーリーです。
この詩は



の視点になります。













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Last updated  2011/01/05 08:28:02 PM
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あや9944 @ おはよ。 二人で転んでしまったら      ど…
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