ちょっといい女

ちょっといい女

雨の日



斑のある灰色の空から次々に降りてくる銀色の糸に身をまかれ、

静かな雨のメロディーに私は1人聞き入っていた。


木々の葉は冷たく雨に濡れて、微妙な輝きを見せていた。

路面は鈍く光り、所々にできた水溜まりが濁った瞳を映し出す。

私は路地に傘もささずに立ち尽くし、虚しい時の経過を見つめていた。

時折、思い立ったように吹く風は、

私の中の今にも崩れ落ちそうな扉を、打ち砕くかのよう。


こんな雨の日は

いつの間にか優しい死の訪れを考えてしまう。

それは私のどうしようもない悪い癖なのかも知れない。

そうすることは容易い筈なのに、今までこうして生きてきた。

何時だって決心がつかなかった。

私の弱い意志が漠然と死を追っている。


雨が少し大降りになった。

私の乱れた髪から雫が1滴2滴・・・。

額をさす雨に心地よい痛みを感じた。

路傍に捨てられてあった小さな空き缶を、忙しげに雨は叩いた。


こんな雨の日は

死に神が甘い言葉で私の耳に囁きかける。

遣る瀬無いほど冷たくなった感情に、ほっと暖かい息を吹きかける。

失われつつあるものを思う私に対しての、暫しの慰めのように。


哀しみも憂いも寂しさをも解した雨の音。

私の求めているものも其処にあるのかも知れない。


つんと雨の匂いがする。

夕暮れ、雨の路地裏。

堪らなくなった私は、我を忘れて雨の中に駆けて行った。


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