アインス宗谷の雑記ノート

アインス宗谷の雑記ノート

稚内



 最初に稚内を訪れたのは、1995年正月2日。名寄から宗谷本線の鈍行列車に乗り、16時半頃稚内駅に着きましたが、すでにあたりは暗く、列車から降りたのも私を含めてたった3人。
 まだ宿を決めていなかった私は、改札の前に立っていた駅前旅館の客引きのオジサンに誘われるまま、その駅前旅館に泊まりました。

 翌日は、バスで宗谷岬を往復。寒風が吹いていましたが、天気は良く、サハリンが水平線に見えていました。

 宗谷岬から戻ったその足で、市内をうろついてみたものの、雪の稚内は人影も少なく、開いている店も少なく、寂しくなってその足で急行「サロベツ」で稚内を離れました。

 その年の夏。
 今度は飛行機で関空から稚内空港へ降り、リムジンバスで稚内フェリーターミナルへ。
 正月と打って変わって、バイクや自転車の旅を楽しむ人達を含め、多くの旅人、帰省するらしい人で、稚内駅からフェリーターミナル、防波堤ドームあたりは賑わっていました。

 この時は、そのままフェリーで礼文島へ渡り、しばらく滞在。あとから聞けば、その日の朝1便の礼文島行きフェリーは積み残しが出たらしい。

 この後数年、礼文島通いが続き、その度、稚内を通り、フェリーや飛行機、列車の時間待ちの時間、ときにはダイヤの都合で稚内で宿泊することもありましたが、ノシャップ岬、防波堤ドーム、稚内公園と訪ねましたが、やっぱり駅周辺が心落ち着ける場所で、旅人に有名?な郵便局近くの小さな喫茶店も何度か行きました。

 ある夏の日。礼文からの帰り、フェリーを降りて街をうろついていたら、お腹が急に痛くなり、トイレを探そうとしたのですが、駅から少し離れていて、駅のトイレまではモチそうにない。
 で、目に入ったのが市役所の隣の「稚内総合文化センター」。
 ここならトイレは当然あるだろう。で、玄関を入ってみると、受付があって喪服のような黒い服を着た人が数人立っている。
 「稚内市戦没者慰霊祭」。そうだ、今日は8月15日。
 とにかく、お腹が泣いているし、トイレを探すと、その受付のある廊下を通った奥。
 場違いなラフな服装にバックパックを背負い、カメラまで持った人間がその「黒い受付」の前を通ると、受付の人が深々と頭を下げ、「ご苦労様です」
 「あっ^^; いや…ゞその~」
 しかし、時間がない。とりあえず、頭を下げたまま受付を通り過ぎてトイレへ。

 無事、事が済んだのですが、もう一度、あの受付を通らなければならない。
 と、会場であるホールから式典の始まる様子が聞こえてくる。
 トイレの入口からそっと受付の方を窺うと、受付の人もホールへ入ったらしく、誰もいない。
 「今だ!」
 こそこそと小走りに廊下を逃げるように玄関へ。
 「オレ、なんか悪いことしたっけ?」。

 気を取り直して、空港行きリムジンバスの出る駅前のバスターミナルへ。
 本日の気温18度。バスのりばの案内所に「稚内海水浴場・遊泳可」この最北の街に海水浴場があるのも驚きですが、気温18度の日に「遊泳可」って…。

 聞けば、道東の釧路や根室の沿岸は、寒流が流れていて水温が低く、夏でも泳ぐことができませんが、日本海側は、この稚内まで、暖流が流れてくるので水温が比較的高く、真夏なら泳げるとか。
 でも、そこまでして泳がなくても…と、いう気もしますがねぇ。

 別の年の初夏。
 関空からの飛行機が稚内行空港へ着くのが14時25分。港を礼文行きのフェリー最終便が出るのが15時。空港-港間は、リムジンバスで35分。
 空港へ着いて手荷物を受け取る時間もあるし、どう考えても間に合わない。
 まあ、タクシーを飛ばせばいいか!と、手荷物を受け取って時刻を見ると14時35分。20分で着けるか。
 タクシーに乗り運転手さんに「3時の礼文行きの船に乗りたいんだけど」と言うと、「えっ!まあ、行ってみよう!」
 その後は、飛ばす、飛ばす^^;

 空港は街の東、フェリーターミナルから直線距離でザッと15Km。
 街の入口までは一本道の国道を行き、そこからは裏道。
 漁港に沿って走り、水産会社の冷蔵倉庫や漁協の建物などが並ぶ、今までに知らなかった稚内の風景を眺めつつ90km/h以上のスピードで飛ばしてくれる運転手。
 後部座席で感謝すると共に、パトカーがいないことを祈っていました。

 フェリーターミナル着。14時50分。すばらしい!15分で空港からここまできた。
 改めて御礼を言い、料金を払ってフェリーターミナルへ。余裕で間に合いました。

 でも、その二ヵ月後は、稚内空港へ早く着ける東京からの便を使ったのでした。

 宗谷本線で抜海あたりで利尻を眺めたあと、列車は勾配を下り、やがて正面に天北線の後と街が見え出すあたりから左へカーブをしながら稚内市街に列車は入っていきます。

 飛行機なら、高度が下がって、丘陵と大きな牧草地が見え、海岸線を行く国道が見えたら、もう稚内空港はすぐ。

 列車、飛行機で稚内に着く直前のこの瞬間、この時がひょっとしたら、私にとって、一番胸躍るときかもしれません。

 旅の途中、もっとも楽しい中継地点が、私にとっての稚内の街です。
(2005.8.21)


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