海辺のお部屋

海辺のお部屋

虐待




 私には失われた記憶がある。
7歳以前の記憶。
うっすらとはあるが、母しか登場しない。
7歳以前の記憶の中には父はいない。
何かがそうさせているのだとは思う。
何もなければこんなにもぽっかりと空いていない。
不思議ではあったが、しょうがないし、きっと思い出したら処理できない何かが起こっているのだから、と思い出そうとも今までしたことがない。

 以前、母に少しだけ聞いたことはあった。
父は私が小さい頃、たばこを吸っていて、その吸い殻を私が遊びたべをして、私が胃洗浄をしてから、父はたばこをやめて、アルコールにそまったと。
しかし、私にはその記憶が全くなかった。
父がたばこを吸っていたことも覚えがない。
なので、本当に小さい頃なんだろうと思っていた。
しかし、私の記憶は戻った。
父がたばこをやめたのは私が4.5さいの頃である。
今ははっきりと思い出せる。

 先日、彼とある公園に行った。
その公園は広くて自然が多くあって私は好きなので、友達とも何度か行ったことはあった。
しかし、先日彼と行った時だけ私はある場所で止まった。
「ここ、小さい頃、来たことがある。。。」
あの時は母と一緒に来たこと、楽しい思いでが出てきた。
私の小さい頃って結構、楽しかったんじゃん。
とか思っていたけれど、なぜかその日の夜からその公園の景色にうなされるようになった。
何かがあることには間違いはないけれど、それがなんなのか分からなくて、発作が続いた。
自分でもいつのまにかあの景色が嫌いになっていた。
そして、おととい、事実が少しづつ明らかになった。

 私はあの公園で迷子になったことがあった。
父はたばこを吸って、母は妹にばかり声をかけて、
寂しくて隠れたつもりが、置いていかれた。
しばらく泣き続けたら、誰かが声をかけてくれた。
大きな公園なので、園内放送みたいのがあって、それで呼ばれて、
やっと家族が迎えにきた。
「何やってたの?(怒)」

 その記憶をおもいだしてから、私の記憶はどんどん出てきた。
私は7歳まで、身体的虐待を受けていた。
精神的な虐待は日常茶飯事だから、これはもう受け入れなくてはいけないと思っていた。
そしてなにより、父は暴力だけは振るわない人だから、それだけでも許してあげようと思った。
しかし、本当は暴力もあったのだ。
私が記憶の中から消していただけで。

 父は確かにたばこを吸っていた。
しかし、その執着は異常だった。
私に吸わせたり、私を灰皿のようにあつかったり、
吸い殻を口の中に入れたり。

 母は確か、私がたばこを遊び食べしたと言っていた。
実際の事実を聞くのは怖くてできないけれど、私の記憶の中では、
食べさせられたのである。
きっと、母は私の異常な苦しみ方に危機を覚え、病院に駆け込んで、あそびたべをしたと言ったのであろう。

 私の記憶の中では母も、隣で見ていた。
でも、何もしてくれなかった。
母は私を見捨てていたかのように。

 私は昔から自己評価が低い。
学年でトップの成績。
児童会の委員。
マラソン大会の優勝。
何をやっても1番だったのに、家では誉めてもらったことがない。
それどころか、1番で当然のごとく扱われた。
何をやっても1番なのに、私はいつまでたっても孤独だった。

 自傷行為をはじめたのは中学1年。
いじめられたのがきっかけだが、それ以前に私はこの世の中に必要とされていない。
そう感じていた。
誰にも愛されていない。
実際、親には冷たくされ続けたし、友達はいなかったし。

 自分なんて死んでいいんだ。
この概念は私の中で、うつ病になる前からあった。
死にたい。
この言葉を何度言って、何度死のうとしたか。

 なんでここまで私は自己評価が低くて、そんなにも愛を感じられなかったのか。
今まで分からなかった。
その答えは私の失われた記憶にあった。

 私は父に確実に虐待を受けていた。
そして、そばにいた母が何もしてくれなかったことで、
私は世の中に必要ではないと、小さい頃から思い続けていた。
看護婦という仕事を選んだのも、自分を必要とされている、
その実感が欲しかっただけかもしれない。
今やっと、記憶のかけらがつながった。

 でも、なぜ、今まで何度も通った公園で、彼と行った時に思い出したか、疑問がある。
昨日、あるチャットで自分で話しながら気がついた。
今まで結婚すら考えなかった私が、付き合う、そのこと自体が無意味だと思っていたし、必要ないと本気で思っていた。
しかし、彼と付き合って、結婚してもいいと本気で考えるようになった。
今までは自分のような苦しみを誰にもさせたくないから、結婚もしないし、子どもも産まない。
そう決心していたのが、結婚はしたいけど、自分の分身を作らない自信はない、に変化した。

 そうしたときにやはり、私はこの問題と向き合わなくてはいけなかったのでしょう。
今も、この事実を認めたくない自分がいる。
でも、これは受け入れなくては、私は結婚するべきではないでしょう。
がんばって、向き合おうと思います。



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