emeraldsea

ガード下の土砂降り


「ガード下の土砂降り。死んだように静かに何を待つ」  2007-12-29日記








乾くことと潤うことの繰り返し。
這いつくばりながら辟易しながら、大して意味などない生を重ね、
熱と埃で汚く乾いたアスファルトの上を歩きながら、いつしか激しい雨が降り始めて・・・・・。
ふざけんじゃねえぞ。
そんな風に誰に向かって呟くのか。
素敵だね。
なんて誰に向かって微笑みかけるのか。
そして瞳はいつだって、無言で、
乾くことと潤うことの繰り返し。

きっと、あなたの人生だって似たようなものだろう?僕だけじゃないはずさ。


てことで脈略なく強引に音楽の話題に変えよう。
シオンという日本のシンガーの過去のアルバムにNYのギタリストであるロバート・クワインが参加した作品があるということは知っていた。
アルバムのタイトルも知らない、曖昧にただ、知っているという程度だったから聴いたことはなかった。
そもそも、シオンというシンガーがあまり好きでなかったという理由もあった。好きでなかったというのは正確ではない、きちんと聴いたことがないというか、バブル期に咲いた何か怪しくインチキくさいアーティストのように手前勝手に偏見視していたのだ。シオンというシンガーの顔も嫌いだったことも大きい。
そんな風に漠然と思いながら、いかに大好きなギタリストであるクワインのギターが聴けるアルバムであろうとも避けていた節がある。
しかし、シオンが嫌いだった10年以上も前の僕は一体どこへ行ったというのだろう?
今夜にTUTAYAでシオンのベスト盤CDを偶然に発見した。今、生まれて初めて、きちんとシオンの歌を聴いている。ヘッドフォンを通してストレートに殴るように泣くように流れてくるシオンの音と大ボリュームで対峙しながら涙を流している自分がいる。

「ガード下」
「水の中にいるようだ」
「月が一番近づいた夜」

この3曲。
特に、「ガード下」「水の中にいるようだ」の2曲。
こんな歌、初めて聴く。まさか年末の穏やかな夜にこんな衝撃に襲われるなんて予想だにしなかったことだった。
間違いなく、この曲の中で魂を削るようなギターの轟音を拡散させているのは、ロバート・クワインだろう。
こんなに骨にまで染みるフレージングを響かせることが出来るギタリストなんて他にいるはずがない。
この演奏を聴くまでクワインの技量・類稀な感性が最高潮に発揮されたアルバムは、ルー・リードやロイド・コールやジョン・ゾーンやエトセトラではなく、リチャード・ヘルのセカンド・アルバムだと僕は信じて疑わなかった。疑う余地さえ微塵もないほどにそれは神業としか形容出来ぬ演奏であった。「スターリング・ハー・アイズ」という名曲におけるクワインのソロこそが彼の人生の集大成そして最も深遠なる輝きであると思っていたのである。
しかしまあこのような見解はあながち的外れではないにせよ、しかし、シオンの曲「ガード下」「水の中にいるようだ」の中のクワインのギターの凄さは半端じゃない。今まで持論していた拘りなどアッサリと消え去ってしまう、おそらくこれがクワインの人生を賭けた最上のワークであったに違いない。そうとしか思えない。
まるで死期を悟った人間が自分の人生の最後の最後に精魂尽き果てる程に、曲の中にギターの音色を刻みつけ塗り込んでいるかのようだ。
凄過ぎる。
この曲におけるロバート・クワインのギターは、そしてシオンの歌声は、まさしく土砂降りの中の白鳥だ。冷たい雨に汚れ凍えているが、この世でもっとも美しい羽根の震いと叫びが何処までも広がる夜の空と大地を揺らしている。







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