うりぼうず

うりぼうず

紀行



 エチオピアの帝政が崩壊して、もう30年か。これは、イギリス人の夫と、1964年ごろに、一年間エチオピアに滞在した日本人女性の書いた本。
 特にエチオピアに溶け込んだわけでも、エチオピアのために何をしたというわけでもなく、むしろ交流の多くは、エチオピアに滞在する欧米人など。彼女は、必ずしも、エチオピアに対する「愛」を感じるわけでもない。
 でも、それだけに逆に冷静に当時のエチオピア社会、そして、エチオピア社会を鏡にした欧米の姿(日本も含めて)が見えてくる。
 クーデター後は、毎年のように起きる旱魃を飢餓、そして内戦。世界でもっとも悲惨な地域と化してしまったが、その根は、著者の滞在当時から地中のマグマのように爆発を待っていたかのようだ。
 ★「イタリア・都市の歩き方」(田中千世子、講談社現代新書)
 映画評論家である著者が、映画を通してイタリアの歳を紹介。フェリーニ、ヴィスコンティ、パゾリーニ、タヴィアーニ兄弟など、イタリアの巨匠たちの作品の記憶がよみがえる。ミラノの項では、「若者のすべて」を通して、北部と南部の宿命的名対立を描いたり、ヴェネツィアでは、「夏の嵐」「旅情」、「ベニスに死す」などを通し、水の都の魅力を伝えている。個人的に大好きな「サン・ロレンツォの夜」なんかも紹介されている。

 ★「娘に語る祖国」(つかこうへい、光文社)
 在日としてのつか氏が、「祖国」で「熱海殺人事件」の公演をするための旅。完全に日本文化の中で育ちながら、切り捨てることができない「祖国」。英雄的な存在でありながら、半日本人としての扱いをする「祖国」の文化、ありかたに罵声を浴びせつつも、寄せる愛情が感じられる。全編抱腹絶倒という内容ながら、日本、韓国、そして在日を考える上では、名著なんだろうな。


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