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アクシデント 4



女はじっと窓の外を見ている。
女を部屋に入れていいものか、躊躇する自分がいる。
まったく素性のわからない女。
でも、非がある俺のできることといったら、それぐらい。

女は警察も病院もいやだという。
俺の部屋がいいという。

なんか、やばいことにならないといいけど。

普段通らない田舎道を走ってきたが、ようやくアパートの前に着いた。
「車を置いてくるから、降りて待ってて」
アパートから駐車場まで少しあるので、そこで女を降ろした。
車を置いて戻ってくると、アパートの下に女はいない。
どこへ行ったのだろう。
そこら辺をうろうろと探すと、脇の路地裏にしゃがんでいた。
近づいてみると、野良猫を手なずけて、顎を撫でている。
俺に気づいて、笑いかけた。
「ほら、見て。かわいいでしょう。」
なんだ、元気じゃん。
この女に車をぶつけたなんて、なんだか信じられない。
あれは本当のことだったのか?
数十分前のことなのに、嘘みたいだ。

「狭くて汚いけど、まあ入って」
2階へ上がり、ドアを開けて女を部屋に入れた。
「おじゃまします」女は丁寧にお辞儀をし、脱いだ靴をしゃがんで揃えた。
育ちの良さを感じた。
再び立ち上がった女の顔を見た。
左目の下が青く腫れ上がっていた。
「そこ、腫れてる。痛い?」
触ろうと手を伸ばすと、女は顔をそむけた。
「うん。痛い」
「すぐ冷やそう」俺は台所へ急いだ。

タオルを水で濡らし、氷を用意していると、俺の背中に女は呟いた。
ちょっと恥ずかしそうに、そして、懇願するように。

「今夜、泊めてくれる?」


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