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アクシデント10


休めない俺はすばやく目覚ましを止め、
寝息を立てている彼女を起こさないようにそっと部屋を抜け出して
近くのコンビニへ走った。
菓子パンふたつにカフェオレ、オレンジジュース、ペットボトルのお茶とおにぎり2個、
カップめん2種類、パックサラダ、
それから彼女が退屈しないように女性週刊誌とファッション誌を買い込んで
部屋のテーブルに置いた。
置手紙も書いた。
「おはよう。仕事に行ってきます。
とりあえず、いろいろ買ったから好きなものを食べて待っていてください。
夕方6時には帰るつもりです。
必要になるかもしれないので2千円置いておきます。通り沿いにコンビニがあります。」

仕事をしている最中も、彼女のことが気になって仕方なかった。
急に容態が悪くなって、苦しんでいないだろうか?
なにか不自由していないだろうか。
そういや、トイレットペーパーまだあったよな??

こんなに終業時刻が待ち遠しいことはなかった。
タイムカードが5時を示したとたん、俺はすばやくPCの電源を切り、
部署に残る先輩へ挨拶した。
「すんません!お先です!」
「なに~??もう帰るのかよ!企画書は??」
「明日やります~~」返事と同時にドアから飛び出した。

早く彼女の顔が見たかった。
心配で仕方ない。
焦るな、と自分に言い聞かせる。
それでも、ついアクセルを踏み込んでしまう。

駐車場に車をとめると、家まで走った。
階段を駆け上がって、部屋の鍵を開ける。
勢いよく玄関のドアを引くと、いいにおいが漂ってきた。
「ただいま!」靴も脱ぎ散らかしたままで駆け込む。
「あ、おかえりなさい」
台所に立っていた彼女が、こちらを振り向いた。明らかに夕飯の支度をしている様子だ。
「・・・起き上がって大丈夫なの?」心配そうに近づくと、彼女はにっこり笑った。
「うん♪大丈夫!・・・テーブルにあったお金で駅前のスーパーで夕飯の買い物してきちゃった。
ごめんなさい、勝手なことして・・・」
すまなそうにうつむく彼女は、とてもかわいい♪
「え?駅前まで行ったの?大丈夫かよ~。買い物はぜんぜんいいけどさ。
で、なに作ってるの?」
「肉じゃがと、ぶりの塩焼き。」
「へえ~。って、そのコンロの魚焼き、長いこと使ってないけど、だいじょうぶかなぁ。」
「え?そうなの?じゃあ照り焼きにする?このフライパン使ってもいい?」

彼女は顔色もよくて、すっかり元気そうだ。どこも痛くないという。
それになんだか、嬉しそうだ。イキイキしている。
肉じゃがに、ぶりの照り焼き・・・もしかして、結婚してるのかなぁ・・・

「もうすぐできるから、着替えて待っててね」
おたまで肉じゃがの味見をする彼女を見つめながら
複雑な思いが、よぎった。


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