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玲子45~調教~


くちびるを寄せたまま、そっと囁く。
「ここで、したい?」
不意打ちの優しい声に、思わず、強く頷いた。
「オレも。でも、やばいよ」そう言ってくすっと笑った。
「せっかく正社員になれたのに、見つかったら2人ともパァだぜ」
「・・・そうね」そういいながら、慎司のものをスラックスの上から、撫でる。
「今夜、部屋に行ってもいい?」首筋にキスしながら呟く慎司。
折りしも、今日は金曜日だった。

慎司との久しぶりのセックス。3回もエクスタシーを迎えた。
貪欲にあらゆる体位を試し、私に恥ずかしいことを要求する慎司の身体からは
あの匂いが放出し、そして私の身体からも溢れ出し、部屋を埋め尽くした。
こんなにも、求め合っている。それは、あまりにも確かで、儚くて、強烈だ。
果てた後、子供のように眠る慎司の寝顔を、朝日が照らすまで私は眠らず見つめていた。
時折、やわらかな睫毛にキスしながら。

翌日、『Bar D』を訪れた。尚子を連れて来た日以来だった。
時間が早いせいもあり、客は誰もいない。
「いつ来るかなと、首を長くして待ってたよ」笑顔で迎えるユースケ。
「へぇ。私に話したいことでも?」カウンターの奥に腰掛けてわざとらしく聞く。
ユースケの言いたいことは、察しがついていた。
「まあね。」いつもの?と、目で問いかけながらユースケはボトルを指差す。私は頷いた。
「尚子のことでしょ?ここに通うようになると思ってたわ」
「うん。かなりの上玉に仕上がりつつあるよ。実は昨日もパーティーだったんだ」
「SMの?」
「そう。まだ客はとれないけど、前座ぐらいはこなすまでに仕込んだよ。
ああいうおとなしい女は、弾けちゃうとすごいね。びっくりするぐらいの変貌ぶり!」
ユースケは思い出したように噴き出した。こいつは、悪魔だ。
私はそんなこと興味なかったが、とりあえず聞く。
タバコを1本ユースケに貰って吹かした。
あの女がどんな格好で縛られようと、吊るされようと、入れられようと、興味なかった。
「よくできたら、ご褒美に寝てやってるの?」
「まあね(笑)それがアイツへの餌、だからさ」
オレも飲もうかな~と、無邪気な表情でボトルを探すユースケ。
こんなかわいい顔で、シロウトの女を釣ってはMに仕立てて売り飛ばすブローカー。
そのルックスで、優しい言葉で、強気な態度で
女の柔らかい部分を、じわじわと侵してゆく。
ユースケの闇の顔。もうひとつの、顔。
「玲子さんも、一回オレとしてみたら?いままでのHってなんだったの?ってぐらいの
気持ちよさ、味わえるかもよ。玲子さんなら商売っ気無しで、プライベートでしたいな」
甘えたようにズブロッカを舐めながら、色っぽい目で誘いかけてくる。
「おあいにくさま。私は、根っからのSなの(笑)」
「決め付けちゃダメだよ。飛び込んでみなけりゃ、わからない」

そうね。ほとんどの人は自分という人間の本質を知らないまま死んでゆくのかもしれない。
私は、慎司によって知らなかった自分を発見した。なんだか、大袈裟だけれど。
いままでの私は、男とセックスした後、同じ部屋で朝まで男を見つめるなんて信じられなかった。
一刻も早く、一人になりたかった。
セックスのやり方も、男にイニシアチブを預けることがこんなにいいとは思っていなかった。
それを許すことすらしなかったのに。

尚子は?ユースケに抱かれたい一心で、Mになりきっているのか。
それとも元々そういう素質を持っていたのか。
とにかく、尚子は新しい扉を開いた。
それが良かったのかどうかは、私には判断できないけれど。
きっともう、後には引けないところまで来ているのだろう。
このことをもし慎司が知ったら?慎司はどんな顔をするだろう。
やっと解放される、と安堵するだろうか。
それとも。


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