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ヒトヅマ☆娼婦28


水島さんは、やっちゃんを会わせることが条件だと言った。
やっちゃんがなんて言うかわからなかったけど、
とりあえず学校の件をお願いすることにした。

水島さんと会った日は、夜遅くタクシーで帰ることが多くなっていた。
今夜も12時を回ってしまった。
水島さんはラブホテルよりもシティホテルで会いたがる。
家庭があるのに、泊まっていくみたい。
あたしにも毎回「泊まっていく?」と訊くけれど
あたしは朝帰りすることだけは、したくなかった。

そうっと鍵を開けて、ドアのノブを回す。
ゆっくり引くと、奥の部屋の明かりが点いていた。
「ただいま」小声で言って、部屋に入る。
奥の部屋のガラス戸を引くと、やっちゃんが半纏を羽織って
机に突っ伏して寝ていた。
机の上には、参考書とノート、冷えたコーヒーとポテチの袋。
夕飯、ちゃんと食べたのかなぁ。
「やっちゃん、布団に入って寝たら?風邪ひくよ」
やっちゃんの背中を摩る。
「ん・・・」やっちゃんが、起きて伸びをする。
「あ、おかえり」
「ただいま。遅くなってごめんね」
「ううん。」
「ちゃんとご飯食べた?」
「食べてない」やっちゃんは、まだ眠そう。
学校のことは、明日話そうと思った。
「じゃ、うどんでも作ろうか?」
「ううん、いいよ。しのちゃん、お風呂は?」
「今日はいい」
「じゃ、一緒に寝て」
やっちゃんが立ち上がって、あたしを抱き寄せる。
「・・・淋しかったの?」あたしは、やっちゃんに訊く。
もし、やっちゃんが「淋しかった」と言ったら
あたしは、どうするべきなんだろう。

「淋しかったよ」
やっちゃんの口から、その言葉が告げられる。
あたしの胸が、きゅんと締め付けられる。
淋しい想いをさせてごめんね。
やっちゃんを、力いっぱい抱きしめる。
「ねぇ、どっか旅行に行こうか・・・」
あたしは、そう口走っていた。
「旅行?」
「うん、あたしたち旅行らしい旅行、してないでしょ?」
「そうだね」
「あたし、計画するよ。いいよね?」
「うん。」
やっちゃんの、かさかさしたくちびるに
グロスで、てかてかしたあたしのくちびるを重ねる。
とっさに旅行を提案したのは
淋しい想いをさせてるやっちゃんへの
罪滅ぼし、なのかな。

あたしは、やっちゃんのものだよ。
それを忘れないで。





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