雨がしずかに降る日には

うつ病について




 人生に思うようにならないことや、不幸に遭遇したとき、人は誰でも憂うつな気分になります。しかし通常は時間と共に立ち直っていきます。
 感情には回復力があり、循環、もしくはリズムがあります。ところがそのリズムがなくなり、気分が落ち込んだ状態が長く続くのがうつ病なのです。

 うつ病は「こころの風邪」と呼ばれ、男性では10~20人に1人、女性では4~10人に1人が一度以上かかるといわれています。
誰にでもかかり得る病気ですが、風邪よりはずっとつらいし、長引くことも珍しくない病気です。
 「時間が経てば自然に治る」、「自分で何とかできる」というものではありません。

 また、周囲からも病気と気付かれにくい病気です。うつ病の場合は、気分が沈む、やる気がなくなるなどといった気分にかかわることが中心です。
 ですからどうしても、本人も周囲も、「気のせい」「気の持ちよう」「放っておけばそのうち戻る」と片付けてしまいがちなのです。


 《性格とうつの関係》

 うつになりやすい人の特徴として、仕事熱心、凝り性、正直、几帳面、正義感が強いなどとあります。しかし、性格はそう簡単に変えられるものではありません。精神的な健康を高めていくには、自分がどういう人間かをそれなりに知って、その持ち味を生かしながら具体的に取り組んでいくことが大切です。
 いま自分が直面している具体的な課題に、ひとつひとつていねいに向き合っていくというスタンスがうつを防ぐという意味でも大きなポイントになっています。


 《ストレスとうつの関係》

 私たちがどこかにぶつけて怪我をしたときに、「あたりどころがわるかった」ということがあります。物理的には同じくらいの衝撃でも、あたりどころによっては怪我の具合がずいぶん違います。
 人の心にも、似たようなところがあります。まわりの人たちと行き違ってしまったことで、強いストレスを感じる人もいれば、あまり気にしない人もいます。引っ越しや職場の配置転換などの環境変化がうつの要因になることがありますが、これも人によってずいぶん受け止め方が違います。
体のあたりどころもあれば、心のあたりどころもあるということです。


 《職場とうつの関係》

 最近、うつ病をはじめとする精神的な不調に関する労災申請が急増し、認定されるケースも大幅に増えています。以前は、精神的な問題については個人的な要因とみなされる傾向が強かったのですが、近年、仕事の与える精神、心理面への影響がより重視されるようになっていました。
 また、うつ病を背景とした過労自殺について、企業の責任を認める裁判結果もみられるようになってきました。そういった判決の背景には、企業は働く人の心身の健康状態に応じて、より適切な労働環境の整備や業務の調節を行うべきだ(安全配慮業務、健康配慮業務)という考え方があります。
 世の中の全般的な流れとして、このような考え方がより強くなっています。


 《体の病気とうつの関係》

 がんにかかっている人の20~25%の人に慢性のうつ病があり、末期がんの患者さんではそれが23に~58%高まると報告されています。
 また、うつ病にかかると通常の2倍ほど心筋梗塞にかかりやすいといわれています。一方、心筋梗塞の患者さんの20%近くがうつ病にかかっています。脳出血、脳梗塞などの脳血管障害からのうつ病も多く、私たちの精神機能と身体機能は実は密接に結びついています。


 《うつ病の「急性」と「慢性」》

 うつ病にも急性と慢性と呼べるような経過の違いがあります。いままで元気だった人が急に気分がふさぎこんでしまうこともあれば、だんだんとペースが落ちていくような人もいます。もちろん、大事な人の死などの強い悲しみから気分がどんと沈んでしまうこともありますが、とくに理由がなくても、急に落ち込むこともあるようです。


 《心因性うつ病と内因性うつ病》

 心因性うつ病は、なんらかのできごとやストレスをきっかけとして起きるうつ病で、そういうきっかけなしに純粋に脳神経面の原因から起きるうつ病が内因性うつ病です。内因性うつ病には薬物療法が向き、心因性うつ病は精神療法が治療の主体となると考えられてきました。
 けれどもその後の研究で、心因性と内因性のうつ病は明確に区別できないことがわかってきました。どちらのうつ病でも発症前にはほとんどの人が何らかのストレスを経験しています。はっきりしたきっかけがある「心因性」のうつ病でも、抗うつ薬は症状の改善に役立ちます。
 現在では、そういう原因よりも、症状やきっかけになったストレスにもとづいてうつ病の診断や治療法を決めていくという考え方がとられています。


 《うつ病に合併しやすい精神症状》

 うつ病の人では、突然動悸や過呼吸が起きて不安になるパニック障害や、小さなことが気になって仕方がなかったり、何度も同じことを繰り返してやめられなかったりする強迫性障害などの不安障害、アルコール依存症などの症状をいっしょに起こしている人がよくみられます。
 精神的な不調では、原因や病名を決めることが重要なのではなく、いま起きている症状をなるべくはっきりさせましょう。


 《うつ病が気付かれにくい3つの理由》

・うつ状態の精神的な苦痛を、「病的」ととらえずに、「気持の問題」「気のせいだ」などと、自分の問題としれ考えてしまう。

・頭痛、腰痛、肩こり、胃腸症状などの身体状態が出やすい病気のために、その裏に「うつ病」が隠れていることを見逃してしまいがち。

・「うつ病」のために行動面の問題が表れているのに、病気で性格が変化したとは思われず、「抑うつ気分」に気付かない。


⇒女性とうつ


© Rakuten Group, Inc.
X

Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: