インディー(17)



「彼氏って馬面なん?」

「なかなか、エエ男ッスヨ」
とヤベ


「最近どう?うまく行ってる?」とナオミに軽くジャブ。


少しうなだれながらナオミ
「あたしってわがままやし、贅沢でしょう?彼も付き合うのしんどくなって来てるみたい。一生懸命バイトしてる」


「そう・・」
と軽く流すヤベ。


まだ、22かそこいらの年ごろと見たが、ヤベはバーテンダーとしての資質をたっぷりと持っていた。

それなりに女と付き合い、別れ、いろいろ経験して来ないと、この手の味はなかなか出て来ないものだ。


客との会話の引き際が、後味の良いカクテルのように爽やかだった。


「そろそろ、行こうか?家はどっち?終電近いだろ?」

まだ、カウンターに座ってヤベと話がしたいような雰囲気を残したナオミを促して、店の外に出た。


雪がちらつきはじめた高瀬川沿い。まだ、街の明かりは賑やかで、パブ、キャバクラなどの客引きのオニイサン、オネエサンが、通り過ぎる私たちに次々に声を掛けて来る。


「いい店を紹介してもらったよ」

「コートドールか・・。しばらく通い詰めそうやね。」

「私も、通い詰めます。お金があれば」

「ショットバーの飲み代くらいなら、心配いらないよ。僕が出す。」

「それじゃ、フリーペーパーの打ち合わせは、コートドールってことで!」

おやすみの挨拶をしようとした私を引き留めてナオミ
「あの、私も原稿を書きたいたいんですけどいいですか?バレエのこととか・・」

「うーん、バレエは、全く予定外だったけど、OKにしよう!」

「今度、バレエのビデオとか持って来ます。現代バレエっておもしろいのが、たくさんあるんですよ!」


「ウンウン、わかった。楽しみにしてるよ!」


ついにエンジンが音を立てて回り始めたような感じだった。

もう、人のフリーペーパーに乗っかるなんていう横着な考えは、吹き飛んでいた。

どんな人たちを対象に、どれくらいのボリュームのフリーペーパーを発行して行くのかなんて構想は、ほとんどカオスの中にあったが、

ともかく作るぞ
と言う決意は固まっていた。


ナオミという風変わりなパートナーを得たことが、大きな心の支えとドライビングフォースになっていたのは間違いない。


(つづく)



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