インディー(32)



腹ごしらえは、それぞれ勝手に済ませていた。

東門街の片隅の小さな店、天使の泡。

「やあ、おひさしぶり」

(いました、いました噂のバレエフリーク、世界を股にかけてバレエを追いかけるオジサンオボッチャマ!相変わらず顔の色つやがいい!)

「おひさしぶり。例のロールケーキの店の情報、さっそくゲットして来ましたよ!それは、後でお話するとして、今日は元バレリーナでバレエ研究家を目指しているナオミをご紹介したくて連れて来ました」


上目遣いにしとやかに挨拶するナオミ。

軽く会釈するオジサンボッチャマ。

火花が散っていたのか?シンパシーのオーラで二人が包まれていたのか?、私には知る由もない。


マスターとオジサンボッチャマは、何やら秘密のヒソヒソ話をしていたようなので、我々はとりあえず気を使って、奥のテーブル席に陣取った。

マスターが差し出してくれたシャンペンリストを見ながら
「今日は、オレの好きなシャンペンにさせてくれぃ!OKだよね!」
二人から確認のアイコンタクトを取る間もなく
「マスター!テタンジェのブラン・ド・ブラン!93!」

マスターが、まずシャンペングラスを3人にサーブしてくれて、そのあと、うやうやしくテタンジェを両手に抱いて運んで来てくれた。


ヒロト
「普通のシャンパンとボトルがの形が違いますね!」

ナオミ
「ブラン・ド・ブランって、白の白って言う意味ですよねぇ」


「そうそう、葡萄には巨峰みたいに皮が紫色のタイプとマスカットみたいに薄緑色のタイプと2種類あるだろう?ワイン用の葡萄も同じで2種類あるんだよ。で、薄緑のタイプの品種のみでつくったシャンペンをシャンパーニュ地方では、ブラン・ド・ブラン、白の白と呼ぶのさ。シャン
パーニュでは、ピノノワールと言う皮が紫の葡萄も採れて、これも良くシャンペンの原料として使われるのだけれど、ピノノワールが入るとだいたいこくのある、やや重目のシャンペンになるんだよ。それに対してブラン・ド・ブランは、ぼく好みの繊細で軽快なシャンペンができやすいんだ。」

早くも、蘊蓄垂れ流しモード。
ヒロトに対して差をつけたいという子供じみた心理も働いていたと思う。

「ヒロト君、日本人は良くシャンパンって発音するけど、英語読みなら正確にはシャンペン、フランス読みならシャンパーニュなんだよ」

「はぁ・」

(つづく)



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