インディー(35,36,37)



愉しみは外にもたくさんあった。


私の自慢話と言えば、ごく限られている。


たとえば・・


スペインはナバーラ地方のワイン、マガーニャを媒体として、神と交信した経験があること。


たとえば
博多で暮らしていたころ、行きつけの喫茶店のマスターに誘われて行った玄海灘での船釣り。その船上で食ったカワハギのぶつ切り、肝ダレ。


たとえば
学生時代、下田の臨海実習で、海洋生物学の講師に連れられて行った岩場で、言われるままにはがして食った岩海苔の甘さ

自慢できると言えば、せいぜいそんなところ


噂のロールケーキに話を戻そう


たまたま買った雑誌ケイコとマナブで、どうもこれは、天使の泡で話のネタになっていた店ではないだろうかと思えるような店を見つけた。


パティシエールの顔写真付きでケーキ教室の生徒募集の記事が掲載されていた。
なかなかの美人。
フランス帰り!

店は、山科ではなく京都高島屋のすぐ裏。


さっそく電話。

女性の声。


注文だと思ったのか、

「ロールケーキは完全予約制になっておりまして、今ですとご注文いただいてから、お届けできるまでに一月以上かかります」

という防衛ラインを張るような話ぶり。


ともかく一度、行ってみることにした。


仏光寺通を行き来すること2、3度。

ようやく小さな構えのミディ・アプリ・ミディを見つけた。


店に入って、まずは挨拶。


そして、いきなり
「生徒募集の記事を見て来たんですけど・・」

売り子さんは、私のただならぬ気配に少し表情を緊張させて

「少々お待ちください」
と言い残して店の奥に消えた。

ほどなく奥から現れたのは、小さなかわいいおばさん。雑誌で見た感じとは随分違う。


「残念ですけど、生徒募集はもう終わってしまいました」
とのこと。


私の異様な雰囲気におそれをなしたか?


仕方がない、それでは・・

と言うことで、喫茶ルーンのママへの手土産としてタルトを一つ買って帰ることにした。
噂のロールケーキも予約した。

「神戸のワインバーでね、こちらのロールケーキのことが噂になってましてね。その方は、プレゼントされたようなんですが、とびっきりの旨さに感動して、山科のロールケーキということで探し回っておられました。たぶん、家の人が、箱とか包装とかを先に捨ててしまっていたのでしょうね」


「山科の店は、半年前にたたんで、こちらに移って来ました」
と津田さん。
彼女の名は、津田陽子さん。


「そちらに、二人暮らしのお取り寄せという本がございますでしょう?その本にロールケーキのことが掲載されてから、すごく人気になってしまいまして、今では一月以上お待ちいただかないといけなくなってしまいました」
と売り子さん。

本を手に取ってパラパラとめくる。

一番最後に掲載されていた。


著者は 秋元麻巳子 さん


なんと秋元康の奥さんだ

こんな本を書いていたのか?と少しだけ驚き

「その隣には、先生が書かれたタルトというレシピ集がございます。どうぞ、そちらもご覧になってください」
と売り子さん。

ついでに本二冊も買って帰ることにした。


ケーキとかを作り始めてから、もう5年以上になる。

当時、一番はまっていたのは、北イタリアのお米と牛乳と卵で作る「torta di riso」という素朴なお菓子。
こいつを庭の手製オーブンで焼いたりしていた。

もちろん、冬にしかつくらない。


(つづく)


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