インディー(56)


と突然叫ぶ!


よろよろと立ち上がって

「ママッ、おひやちょうだい!」


「オカチャン、歌うたうんや」とあから顔のナオミ。


「みなさん、バケツのご用意を」
と伯爵。


「ウッセー、こう見えても、オレは筑波大学混声合唱団でバリトン張ってたんやで」


「マジッスカ!」
とおおげさなヒロト。


「ギャハハハッ!」
と悪酔いの兆候が既に出ている伯爵。

ボロロン
とおもむらに始める。


一応、全員、静まって聴いてくれている。

額から滝のように汗が吹き出す。

身内の前でも、ギター弾き語りは緊張するものだ。


カラオケとは、わけが違う。


途中、1、2度詰まりかけたが、なんとか最後まで歌い通した。

更に酔いが回って足元が危うい。


「いやあ、若いですねぇ」
と、ハセさん。

褒めているのか、からかっているのか・・

たぶん両方

「50になったら、ブルーズシンガーでデビューするつもりなんですよ」
と真顔でハセさんに語りかける。

目が据わって来ているのが、自分でもわかる。

「そろそろ、おひらきの時間なんですけど」
とママ。


「このあと、ヤベさんのみせで2次会でしょ。その前に、私は片付けをしないといけないから、みなさんは、八坂神社の姥桜でも見てきとくんなはれ」


「そうやね、カメラ持って来たし、姥桜の前で記念撮影や」
と伯爵。


みんな危うい足どりで階段を降りて、人込みの通りへ


同じ様に、花に浮かれたご一行様ばかり


八坂神社の方、東の空に、ぽっかり浮かんだ満月。


「きれいな月やわあ」
とナオミ。


夢のようなひととき


忘れられない瞬間なんて、気づかないうちに訪れて、消えて行く・


(つづく)




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