インディー(62)



ビルの壁面には、投光器が何基も設置され、監視カメラも2台、それぞれ路地の反対側を睨んでいる。

いかにも!という感じのヤクザ事務所。

一階の駐車場には、白塗りのベンツとブルーのムスタングが、仲よく止まっていた。

丸がりをそのまま伸ばしたようなボサボサ頭のトレーナーのアンチャンが、番犬のように駐車場のすみっこのパイプ椅子に座って、ボーッとしていた。

アンチャンに声をかける。

「ちょっと、番頭さんに用事があるんやけど・」

「ヤベの連れやゆうたらわかる」


アンチャンは、ふてくされたような態度で、私に一瞥をくれて、中に消えた。

出て来たのは、五分刈りのデップリとしたオッサン。(私もデップリとしているが、まだ五分刈りにしたことはない)
「なんのようや?」

「ここにはヤベはおらんでー」
常識にかなった威嚇するような態度。


「ヤベとは、さっき病院で会って来ました」


「ヤベが、しでかした事について謝りに来たんです」

シレッとして言ってやる。


「あんた、なにもんや?サツの回し者とちゃうやろな?」

「私は、ただの遊び人で、ヤベの連れです」

「なんやそれは?」

「身分証明書、持ってるか?」

「免許証やったら持ってます」
と財布から出して、差し出す。

さっきのアンチャンが、サッと取り上げ、奥に消えた。


「ここがどういう事務所か、あんた、知ってるんか?」

「上新組の事務所です」

「そんで、ヤベ君とやらが、どんな悪いことしたんや?」

オッサンの吐く息が、やたらとニンニク臭いので、鼻が曲がりそうになる。
「ヤベが上がりをパクッたと聞いています」

「ほぅ?」

(ヤクザ会話初級コースっちゅう感じ)


アンチャンが、また現れてデブッチョに耳打ち。


デブッチョ
「親分のOKが出たわ」

「まあ、入れ」
デブッチョが、オイとアゴを振ったら、アンチャンは手際よくボディチェックを済ませた。


(見かけによらず良く訓練されたアンチャンだと感心した。しっかし、どさくさにまぎれて、タマキンのチェックまでするこたぁ、ねぇだろー、このー)


私を先頭に立たせて階段を上る。


通されたのは、外観からは想像もできないフカフカのカーペットが敷かれたゴージャスな応接間。

正面のデスクには、誰も座っていない。


「まぁ、座れや」

とデブッチョ。
(つづく)




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