Einsatz

14.温泉と泥棒






14.温泉と泥棒









カガリ、シロン、ナジュリア、シルファー、ファンロックの一行は再々、火の国の首都・ラグズバレーへと向かっていた


「いやー、それにしてもカガリ殿がピアノを演奏できるとは思いも寄らなかった」

「何だって?」

「そうだよなー…普段の態度からは想像できねーよ」

「うむ」



シロンの言葉にうんうんと頷くファンロック
だが、シルファーだけは



「だが、私は感激した…まだ礼を言っていなかったな、ありがとう……カガリ」

「どういたしまして」



礼を言った
これでカガリの気も紛れたって訳である
そんな時「ところで…」とシルファーが再び口を開いた



「ロギドヘブン連合国とはどのような国なのだ?」

「あれ?知らないのシルファー」

「う、うむ…話にはよく聞くが実際のところ…」



とナジュリアの問いに口を濁すシルファー



「なら、カガリに直接聞けば良いじゃない。いずれは国の頂点に立つ人材なんだから」



ねー、とナジュリアは悪びれもせず、カガリに説明を要求した
その無自覚なのか自覚済みなのかわからない笑顔がまた恐い



「領域から言うと、西暦時代、日本があった所から南に下がってオーストラリアがあった所まで
 火の国レイジは隣国で、風の国も隣国って言えば隣国だな。四季がはっきりしている所が特徴だ」

「いい国だな」



シルファーが礼を言った
「ところで…」と今度はシロンが話題を変える



「火のサーガ候補ってどんなやつなんだ?」

「ま、条件としては、私達に同調できるってことかしら?」

「それは絶対に必要だろ」



カガリはチラリとファンロックのほうを見る
続いてシロン、ナジュリア、シルファーと全員の視線を移した



「何だ?説明しろと言うのか…妥当な候補としては、フレイ=ファイリーディ」

「ファイリーディ?どっかで聞いたことあるような…」

「彼は都議会議長の息子だ」



ファンロックの説明に「ふ~ん」と皆は相槌を打った
今度はナジュリアが問う「じゃぁ、パートナーの方は?」と



「…パートナーレジェンズ候補のブレイズドラゴン。名はグリードーと言うのだが──」

「あぁ!?何だと!!?」



突然、シロンがファンロックの説明を打ち消すような大声を上げた
シロンの声に驚く、一同
何事かと思えば、シロンとグリードーいうブレイズドラゴンは旧知の仲だとか



「似たもの同士でな…打ち解けあうならまだしも、反発し合っているからな。いわゆる同族嫌悪という奴だ」

「それは困るな…」

「ま、なんとかなるでしょ」

「ナジュ、それはいい加減すぎだ」



皆は困ったという風な顔をしたが、シロンは全く別の意味で困っていた
「同属嫌悪で何が悪いんだよ」そうボソリと呟いたのがシルファーの耳に入ったらしく…



「シロン…お前、意味がわかってないだろう?」

「あぁ?そうだよ、わかってねーよ」

「開き直ってんじゃねぇよ、シルファーに説明してもらえ」

「何だと、サーガ!」

「やる気か、コノヤロー」



スチャッと脇に差してある刀を素早く取り出し、切っ先をシロンに突きつける
動作そのものは落ち着いていたが顔はどこか笑っているような感じさえした



「カガリもシロンも落ち着いて。もうすぐラグズバレーに着くんだからさ!」



ナジュリアの言葉に刀を鞘に収めるカガリ
シルファーは補足説明をした



「結局は、パートナーの意味を成していないと言えるだろう」

「ふーん」

「わかったか。バカシロン」

「ふん…」



一行は話をやめ、飛ぶことだけに集中し、やっとのことでラグズバレーに到着した

そして、着陸するという瞬間に



ドバァァ!!
突如、オメガが言っていた火の壁らしきものが出現した



「ぎゃぁ!な、何これ、何これー─!!?」

「何だ?」

「これか!!オメガが言っていた炎の壁とは!!」



シルファーの一言で全員が納得…してる場合では無かった
一箇所出たと思えば、次から次へと炎の壁が出現する



「シルファー!早く何とかしろ!!」

「あ、あぁ!!」



シルファーは扇を手に持ち、それを広げて止まった



「ど、どうしたの、シルファー?!」



ナジュリアが切羽詰まった表情で問う
それに対し、シルファーは冷や汗を浮かべて答えた



「…この扇の使い方……聞いてくるの忘れた!!」

「アホーーーー!!!どうするの!?」

「聞くなー!!」

「扇なんだから振れば何とかなるんじゃないのか?」

「そうだな。ハァァ!!」



ヒュゴオォー!!ザザザザァン!!



「わあぁ~!!?」

「ぐっ!!」



シルファーが扇を一振りすると強風が吹き、その風は炎を切り裂いた
その強風は炎の壁をいとも簡単に吹き飛ばしたが、シルファーまでもが反動で吹き飛ばされそうだった



「すっごいよ、シルファー!」

「あぁ…この威力は凄まじかったが、私の負担も凄まじい。この扇、少し気を抜けば使い手まで吹き飛ばしかねない」

「まぁ使い方が分かったんだし、火傷もしなかったんだし、一石二鳥よ
 それじゃぁ、私達は今夜泊まる宿を探しそうよ。ファンちゃんは、竜王のところに行くんでしょ?」

「そのつもりだ」

「じゃ、また明日ね!」



そして、一行はファンロックと別れ今夜泊まる宿を探すと、各々部屋へ向かった
また、ファンロックは火の竜王・ジェクトのところへと向かった


宿にて再び集まった四人



「あ…そう言えばここ、温泉あったっけ」

「あーそうだったな。火の国だし」

「じゃぁ、入りにいこうか」

「賛成ー!」



一行は急ぎ足で浴場へと向かった





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「広ーい!!」
「そうだな。誰もいないみたいだし…貸切か」
「やった!私達ツイてる!…っシルファー!!」

ナジュリアが叫ぶと、壁一つ向こうから声が返ってきた


『何だ?』

「こっち貸切~」

『こっちも貸切みたいだ』

「そっかぁ。じゃあゆっくりしなよ~」

『うむ』


ザバザバと音が聞こえると、女同士の会話が聞こえてくる

「ふ~…おいシルファー。何やってんだよ」

シロンが温泉に浸かり、疲れを癒していた
が、シルファーは今だお湯に入らず、むしろ温泉に入るのを避けていた
未だに入り口の前で躊躇している



「…やっぱり私は」

「なんだよ。付き合い悪ぃなぁ」

「あ~…お前が驚くから」

「何に?」

「…まぁいい」



シルファーは意を決してそろりと出てきた



「ぶふぉっ…!!」



シロンはシルファーを見て固まった
普段身に着けている装飾品などを全て取ったシルファーはとても細かった



「シルファー、てめぇ…男だよな…?」

「は!?何を言っているんだ!!?」

「お前ってさぁ、小さいんだよな、何もかも。背丈も普通のカネルドにしちゃぁ低いし」

「それは、仕方がないだろう」

「髪だって、俺に比べたら長ぇし」

「……悪かったな」

「端から見たら、男湯に女がいるぞ」

「シロン!言わせておけば、お前は!!」

『どうした?シロン、シルファー』



隣から聞こえてくる声に不審がったカガリが声をかけた



『な、何でもねーよ!』

「そうか?ならいいけど…」

「いい湯だね~~、カガリ」

「うん」



さってと、とナジュリアは立ち上がり、「先に上がるね」と言って出て行ってしまった





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ナジュリアは一人先に上がり、自分の部屋に向かった
しかし、一階を歩いている時だった

ガタン



「何、今の音」



突然、聞こえてきた可笑しな音に疑問を持つ
この上の階は誰が泊まっている部屋なのだろうと
そして



「私とシルファーの泊まってる部屋じゃない!!」



ナジュリアはそれに気づくと一気に階段を駆け上がり、部屋の扉を開けた



「誰!!?」

「…ちっ!もう帰って来たのか」

「グルルル」



部屋の中にいたのは、フード付きコートで全身を隠している人間とナジュリアの背丈の半分くらいの狼がいた



「ちょっと!!あんた達!…な、ない!!シルファーの扇がない!!?」



部屋の中からは風の扇が消えていた
そして、真っ先に怪しげなフード付きコートの男を疑った



「お前、扇をどこへやった!!」

「扇?あぁ、あれ」



男が指差す方を向いてみるがそこには狼しかいない



「どこへやったのって言ってるでしょ!!」

「ここにいるぜ」

「…は?どこにいるのよ?」



突然聞こえたアルトの声は目の前の狼から発せられていた



「えぇ!!犬が喋った!!」



信じられない事実に驚くナジュリア



「俺は狼だ!ちなみに名前は風来!!」

「ふう…らい?いや、そんなことより、扇!」

「だから、俺が扇なの!!風の扇・神風の風来!!」

「あんたがあの扇ですって!!?」

「そうだよ!!」



目の前の銀狼・風来はフンッと鼻を鳴らした
ナジュリアは訳がわからなっていた



「何がどうなってるの?」

「ともかく、今はアイツだ!!」



風来は鼻先をフードを被ってる奴にに向けた



「そうだった!お前ココに何しに来た!!」



そう言うナジュリアの手には、どこから出したか拳銃が一つ



「な!どっからだしたんだよ?!」


「護衛には必要必需品なのよねー」



護衛とはもちろんカガリのである
実際には、護衛というよりも見張りと言った方が正しい



「おいおいお嬢さん…ハッタリにしちゃあ凝ってるねぇ…」

「ハッタリだと思う??」



ドンッ!!
ナジュリアが銃の引き金を引くと、玉が発射され、男の頬に赤い線が一本ついた



「おい。お前何者だ?」

「それはこっちのセリフよ。私の部屋に何の用?まさか、カガリのことを狙ってるんじゃないでしょうね?」

「カガリ…?お前もブラック家の者か。…残念ながら違う。用があるのはその扇だ」



男は頬に流れた血を拭いながら言った



「俺?」

「そうだ。風の王城にある一品…手に入れたいとは思ってたが、そっちから飛び込んでくるとは
 さっき外でそれ、使ってただろ?それで余計欲しくなっちまってなー」



そういって男は背中に背負っていた西洋風の剣を手に取った



「大人しく渡してもらおうか。俺にはそれが必要なんでね。アイツを倒すために」

「冗談じゃない!誰がお前の物になるか!!俺の主はマスター・シルファーのみ!!」



風来はそう言ってナジュリアの後ろに隠れた



「何よ、あんた武器でしょ?戦いなさいよ」

「俺は神器だけど武器じゃないの!戦えないの!!」

「ったく…使えないわね」



ナジュリアは右耳のイヤリングを引き抜くように取った
すると、それは大きな剣に形を変えていった
ナジュリアは素早くそれを持ち替えて、攻撃を開始した



「そりゃあ!!」

「いきなりかよ!!」



キィン!キンッ!!

(コイツの目的は扇…でも何でコイツが風の王城にある物を知ってるの?
それに、コレだけ剣術ができて、それでも扇が必要なんて。一体どんな奴を敵に回してるんだろう)

(何だコイツ?!女のくせに…こいつを育てた奴は相当な者だぜ。はっきり言ってこいつは強い…)



「隙あり!!」

「しまった!!」



カキイィンッ!!ビビッ!



「それは!!」



二つの剣が交わり、男は距離を取るように後ろへ飛んだ
その衝撃で、ナジュリアは服の一部が破れてしまった

そこに見えたのは一つの紋章



「きゃっ!紋章が!!」

「何で風の王族の紋章!?お前、風の者か!!?」

「何で知って!!」



しばしの沈黙を突き破ったのは、下から聞こえてくる声



「カガリの声…!!」

「ちっ、今日は帰る!!」

「あ、待て!!」



男は窓からヒラリと外へ逃げていった



「ところで、これどうするよ?」



これ、とは部屋の中のことで、先ほどの暴動のせいで、半壊していた



「これはどうとでもなるよ。あんたのせいにすれば良いだけだし」

「…そういうのを濡れ衣を着せるって言うんだぜ?」

「聞こえませーん!それよりも、あんたやあのフード君のこと説明しなきゃ」



ナジュはこれから問い詰められることを考えると頭が痛くなってきた
カガリ達が来るまで後少し…



「明日こそ……」



ナジュリアが悩んでいるところで、男は、一人ぼやいていた





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