百花繚乱

百花繚乱

(小説)-Repeat the Memories...- #0


『-Repeat the Memories...-』


#0

「ねぇ、この海って、世界中と繋がっているんだよね」
「急に、どうしたの?」
「いや、素敵だなって」
「何が?」
「私も、海みたいに広くて、沢山のものと繋がっていたらいいなって」
 そう言って彼女は海岸線を走った。
「夕(ゆう)」
「高橋(たかはし)くん。また、いつかこの海を見れたらいいね」
 少ししたところで、僕に振り返って、後ろで手を組んで、そう言った彼女を僕はずっと見ていたいと、そう切実に思った。
 なぜだかわからないけれど、二人でいれば、何でも大丈夫じゃないかと、そう思っていた。
 だからかもしれない。いずれ僕たちが大人になって、一緒に暮らすようになって、幸せな日が送れるって、いつしか当たり前に思っていた。

   □□□

僕はキミの心に残りたかった。他でもない、キミの心に……。
 全てを忘れてしまっても、僕のことは覚えててくれて、そんな自分になりたかった。
 ねぇ、神様。
 神様は僕が嫌いなの?こんな僕の様を見て笑っているの?
 ねぇ、神様。
 僕は神様が嫌いだ。僕は絶対に神様を許さない。このあとどんな幸福が待っていても、僕はこの先、ずっと神様、あなたを憎み続ける。
 どうしてこんなに僕を不幸にするの?どうしてこんなに僕に辛い目にあわせるの?
 目の前にキミの大好きだった教会に飾ってある絵があった。その存在感に圧倒されて、今の自分がとても小さく感じられた。
 けれども、せめて泣くことだけは我慢した。歯を食いしばって、拳を強く握って、目をギュッと閉じて、溢れだそうとする涙を、必死に堪えた。
 風が吹いた。その冷たい風は僕の体を、心をすごい勢いで冷やし続けた。
 それでも僕は、この絵から離れようとはしなかった。この絵を見ていると、今でも彼女と繋がっているような気さえしたのだった。
 僕はそれが幻想だと知りながらも、けれども離れることを頑なに拒んだ。

 ―――僕はキミの心に残りたかった。



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