INACTIVE OF SAFEHOUSE

INACTIVE OF SAFEHOUSE

第2話




 朝、起きると部屋が滅茶苦茶になっていた。壁が一面、焦げている。棚、机、椅子などは焼け崩れ見る影もない。近くに置いておいた目覚まし時計は無くなっていたし、着ていたはずの服も消滅していた。
「痛…なんだこれ」
 寝ていたはずのベッドも無くなっていたので体が痛い。起き上がって部屋を見渡す。床や壁が残っていたのが嘘のような全焼っぷりだった。
「火…事……か?」


 自分の部屋を出た俺はリビングへ向かった。幸いリビングには火が入っていなかったようで全くの無事だった(途中の廊下は所々焼け焦げた跡があった)。
「誰もいないのか…」
 俺は父親と母親との3人暮らしをしている。いつもなら2人が先に起きていて朝食の準備をしているはずだ。
 ん?というか今何時だ?
 目覚まし時計は無くなっていたから定時に起きている自信はない。掛け時計を見る。9時30分。完全に遅刻だった。


 とりあえずテレビを点けようとリモコンを探しているとテーブルの上に制服をみつけた。携帯と財布もある。確か自分の部屋にあったと思うのだが。
横には朝食と思われるおにぎりといつも使っている弁当箱。それから2つの書置きがあった。
“一週間家に戻りません。大変だとは思うけれど頑張ってね。魔力で溶けるといけないから必要そうなものは部屋から出しておきました。良い週末を。母”
“詳しいことは此処に行って訊きなさい。父”
「テレビ…点けよう」
 現実逃避だ。ワイドショーのリポーターが喋っている。
“「現在、世界で起こっているこの異変。魔法は…」”
 現実逃避終了。テレビの電源を消した。
 家にいても仕方ないので、制服を着て、朝食を済ませ、家を出た。


 父親が此処と書いた場所は近所の公園だった。向かう途中で携帯を開く。新着メール2件。

Frm 渋川 Sub 件名なし
  遅刻?

   Frm ミヤマ Sub 遅い
     早く来い。
 ミヤマって誰だ?登録した覚えがない。恐らく公園で待っているやつなのだろうが、不気味だ。父親が勝手に登録したのか?
 いや、考えていても仕方ないのだろう。渋川には適当に返信して携帯をポケットにしまった。


 指定された公園に着くとそこには誰もいなかった。
 高崎公園。もっと長い正式名称があったような気がするが、地元の人たちからはそう呼ばれている公園だ。それなりに広く、遊具もたくさんある。平日の公園のことは知らないが、普段は子供やお母さん達、お年寄りなどで賑わっているはずなのだと思う。
 違和感。この高崎公園に着く前の道程では普通に人をみかけた(学生服を着ていたからか怪しい目で見られていた気がする)。この公園は、何かおかしい。
「遅い。遅い。遅い。」
 そんなことを考えていると突然後ろから声が降りかかってきた。
「何時だと思っている。10時30分だ。3時間は待っていたぞ。
「何、わかっている。
「大変だったな、お前も。
「心配するな。原因も。要因も。背景も。すべてうちにはわかっている。
「教えないがな。」
「教えないのかよ」
 苦し紛れに一言でたが、俺は圧倒されていた。
 言動に。行動に。髪に。顔に。声に。
 桃色の腰まで有りそうな長い髪。モデルのような体型、顔立ち。やけに高音が突っかかったようなその声。1人マシンガントーク。すべてが、わからない。
「時は金なり。なんて言葉をお前の父から教わったぞ。
「確かにそうだ。期限まで後1週間もない。それをお前がなんとかしなくちゃならん。3時間のロスは大きいかもしれんな。
「いや、お前が、というわけではないのか。ただ単にうちがお前に行き渡っただけの話。
「お前がうちに行き渡ったというべきなのか?
「まぁ、何だ。落ち着けよ。」
「お前が落ち着け」
 あと1人で鍵括弧5つも使うな。
「お前とはなんだ。うちにはちゃんとした名前があるのだ。よく聞け。私の名は…」
 嫌な予感がした。
「あ」
「あ?」
「あ、言ってはいけないのだったな。忘れてくれ。」
 俺の嫌な予感返せ。すごい長いかと思った。
「うちのことは親しみを込めて霧島と呼ぶがいい。」
 霧島、か。普通の名前だが、正直怪しい。胸があるから女なのだろうが、中性的な顔立ちのせいか違和感がある。いや中世的か。ん?というか…
「なんで裸なんだよ!!」
 訳の分からないマシンガントークに流されて突っ込むのを忘れていたが、桃色の髪の女、霧島は全裸だった。


 霧島には持っていた体操着を着せた。背丈は俺と同じくらいだったのでサイズはギリギリ大丈夫そうだった。下着は着けていないが、この際、あまり気にしないことにする(無理な話だが)。
 持っててよかった体操着(これも母親が俺の部屋から出しておいてくれたらしい)。
「全く…あれこれしていたら11時だぞ。時は金だ。時金だ。」
「変な略し方をするな あと、着いてからの30分はお前のせいだ」
「他に人は来ないのだから、気にすることはないだろうに…。あと、うちの名前はミヤマキリシマだ。」
「ミヤマ?」
「あ」
「あ?」
「忘れてくれ」
「いやいやいや」
 ミヤマに関してはさっきのメールで知っていたが、こいつもしかして隠し事下手?
それにしても、霧島美山(漢字は推測)ねぇ。日本人には見えないが…
まぁいいか…
「他に人が来ないっていうのは?」
「人払いの魔法だよ。」
「………」
 いきなりファンタジーだった。今朝の自分の部屋とテレビで予想はしていたが。
「うちみたいなのは日本の背景には溶け込めないらしいからな。」
 なるほど。霧島は霧島なりに考えて行動をしているのか。
「配慮を忘れないうち、まじかっけぇ!!
「まぁお前の父親に言われたからやっただけだけどな!!」
 前言撤回。
「とりあえず詳しい話を訊かせてくれよ」
「ん?
「仕方ないな。
「何、うちは話すのが好きだからな。気にしなくてもいい。
「さて。どこから話せばいいものか…。
「まずは置かれている状況か。状況下について話そうか。お前の情況もそれで変わってくるかもしれないしな。
「今日は月曜日。人によっては『はじまりの月曜日』かもしれないし、『変わらない月曜日』はたまた『悪夢の月曜日』かもしれないな。
「その月曜日に地球の人間は魔法と呼ばれるものを使えるようになった。
「詳しい原因も、要因も、背景も。うちは知っていると言ったが、始めにそれを言っては面白くない。
「省かせてもらう。
「兎に角、魔法を使えるようになった。
「じゃあ、なぜお前は床に全裸で寝ていたと思う。
「答えは簡単。お前の持つ大量の魔力が開放されたからだ。
「なぜ開放されたかって。
「お前が魔力を自分のなかに留めておく術を知らないからだよ。
「魔力はエネルギーだ。
「お前の場合、それが熱となって発散されたのだろうな。
「だから焼け焦げた。いやそんな温いものではないか。
「暑く。熱く。厚く。篤い。
「お前のそれは篤い。
「何しろお前の部屋はシェルターみたいなものだからな。
「お前から全人類を守るためのシェルターだがな。
「心配することはないぞ。もうお前のなかの魔力は有ってないようなものだ。
「全部吐き出したのだからな。9時間30分程かけて。
「全く、予想外だよ。シミュレーションでは6時間で終わる筈だったのだがな。
「上層部は大忙しだ。想定外。想定外と言ってな。
「まぁ、それはどうでもいい話だな。
「ここまで話せば、後はいいだろう。
「最後に。
「これが1番重要だ。
「これさえ守れば、世界は救われる。
「死ぬな。」


 30個以上括弧を使って霧島が出した課題は1つだった。
 死ぬな、と。
 そのための努力をしろと。そういうことらしい。
「体で教えてやる
「拒否権はない。
「なぜなら。
「あと10分程で、お前の体にさっきと同じことが起こるからだ。
「3時間ほどの充電でお前の体は耐え切れなくなるだろうからな。
「この場合、電力ではなく魔力だが。」
 要するにあと10分程で何とかしなければ辺り一面が焼野原になって、俺も死ぬらしい。
「まぁ仕方ないか…」
「焦れよ!!
「焦ろうよ!!
「焦ろうぜ!!
「あと10分で命の危機が迫っているのだぞ。
「なぜ平気でいられる。お前は今、兵器と化しているんだ。」
 焦っているさ。顔に出ないだけ。それにまぁ、あてはあるからな…
 なんとかなるような気がする。
「平気じゃないし兵器でもない どうすればいいんだよ 霧島美山!!」
「前橋有利。
「有利。
「気に入った。その落ち着き。まさに兵器だ。
「魔力だ。念だ。チャクラだ。気だ。
「なんでもいい。目を瞑って、自分の中から溢れ出るエネルギーを体の中に留めるイメージを作れ。
「手や足には留めるな。あくまで自分の中。
「心臓がわかりやすいだろう。
「心臓のまわりに円を作れ。
「その円にエネルギーを注ぎ込め。
「できるか?」
 兵器、兵器、兵器、兵器、うるさいやつだ。
 人を何だと思っている。
 大体、魔力ってなんだ。チャクラって何だよ。
 月曜日の眠い朝にそんなものいきなり持ち込みやがって。
 考えたらイライラしてきた。でもこのイライラを呑み込むのが大人ってやつだ。
 理不尽でもこれはあいつとの喧嘩じゃないんだ。
 呑み込む。留める。留める!

 死なないよ、俺は。平気だった。


「まさか。本当に1人でなんとかしてしまうとはな。」
「できなかったらどうするつもりだったのか説明してもらいたいな…」
 結局、俺は平気だった。自分のなかに魔力を留めておく術を手に入れた。そして今もそれを続けている。
「その時はその時だ。うちがなんとかしていた。
「だが、先程も言ったが、気に入ったぞ。前橋有利。
「お前に敵から身を守る術も教えてやろう。」
「え?」
 これで終わりじゃないのか?俺が自分の中に魔力を留められるようになって…
 それが始まりか。それはそうか…。
「いくら膨大な魔力を持っていても使う術がなければ宝の持ち腐れだ。
「とゆーか、使えるようにならなければ、間違いなくお前は捕まってしまうだろう。」
 よくある話ではあるよな。膨大な魔力を持つものを悪いように利用したがるやつがいるってことだ。
「わかったよ…午後の授業が始まるまで特訓だ」
「付き合おう。有利。」
 まぁ、この特訓が悪夢のような特訓だったのは言うまでもない。
 おかげでそこそこの戦い方は覚えた。


 霧島美山が言うには、俺を捕まえに来る奴らはまだ動きを見せていないらしい。
 だから明日の夜くらいまでは敵にはみつからない、大丈夫だろうとのこと。
 俺は霧島美山と明日の夜にまた会う約束をし、学校へ向かった。
 空を飛んで。そんなにスピードは出せないが、快適だ。
「魔法っていうのも悪くないかもな」
 言った矢先。
「え」
 急にエンストしたように魔力が使えなくなり、地上10メートルのところから降下した。
「痛…なんなんだよ…」
 文句を言っているとポケットの中の携帯が鳴っている。
「なんだ?渋川か?」

   Frm ミヤマ Sub 呪い
    言い忘れていたが、うちは魔術師ではない。呪術師だ。有利にプレゼントをかけてあげた。いわばボーナスだな。
    どこでかけたかって?チャンスはいくらでもあっただろう。特訓中とか。
    そうそう効力。効力。今から有利は30時間魔力が使えなくなる。うちのSS級の呪術でもそれくらいしか抑えられないとは悔しい限りだよ。
    なんでそんなプレゼントをって?
    おいおいわかったことを訊くなよ。あ、訊いてないか。
    まぁわからなかったら怨まれっぱなしになってしまうからな。一応説明しておく。
    理由は2つ。
    1つ目に明日の夜くらいまで敵には見つからない、大丈夫って云っただろう?
    2つ目に無意識の状態で魔力を抑える術をまだ有利には教えていない。寝る時どうするんだって話だ。
    シェルターがある?もうあれは壊れているよ。3時間30分の過多は大きい。
    まぁ、そんなところだ。
    わかったら学校に行くんだな。高いところから落ちた?
    気にするな。私の呪術がある程度のことは守ってくれるはずだ。
    魔法は使えないがな(笑)
「………
「学校へ行こう」

10
 世界は刻々と変わっていく。
 前橋有利。
 渋川真司。
 片品るり。
 昭和由美子。
 キリシマミヤマ。
 次は誰と誰が出会う?

11
 月曜日。9時25分。思い出したように真司は椅子に座っていた。
 前の椅子は空席。
「怖気づいたか、前橋」
 独り言が出てしまう。つい頬を摩る。そこで違和感。
「痛くない…傷が…ない!?」

12
 昨日。日曜日。真司と有利は大喧嘩をした。
 殴り、殴られ、殴った。
 勝ったのは有利。最後まで立っていたのは有利だった。
 だからこそやり場がない。勝ったのだから堂々としておけばいいのにと思っていた。
「寝る」
 真司は不貞寝に入った。

13
「前橋君と渋川君が昨日の夜…」「あ、それ知ってる 高崎公園で殴り合いの喧嘩してたんでしょ」「そうそう ちょっと怖いかも」「アンタ達こんな時まで2人の話?」「えー魔法より2人のことのほうが気になるよー」「2人ともイケメンだしね」「アンタ達は…」
 同じ日、同じ時間。つまり月曜日の9時25分。るりもまた思い出したように椅子に座っていた。
 授業は全学年全クラス自習。先生がいないのが手伝ってか、皆、好き勝手に話していた。
「喧嘩…?」

14
 1時限目の授業が終わると、るりは不安そうな顔で、すぐに隣のクラスへ向かった。
「あれ?おかしいなぁ」
 有利と真司の姿が見当たらないのだ。
「お手洗いかなぁ」
「お手洗いだ」
 後ろから声をかけられる。
「ひゃぁっ」
 変な声が出た。
「何やってんの るり」
「あ、しーくん!」
 真司の姿を確認すると一瞬るりは満面の笑みになり、すぐにまた不安そうな顔に戻った。
「あの……ユーリ君は?」
「……そういえばまだ来てないな、前橋のやつ」
「そっか…遅刻か……えっと…あの…」
「何?」
「ひ!?」
「ひ?」
「あの…その……しーくん、ユーリ君と喧嘩したの?」
「………喧嘩はしょっちゅうしてるじゃん?」
「んと…そういうのじゃなくて、凄い喧嘩!」
「ぷっ…凄い喧嘩ってなんだよ」
「えええええ、何で笑うの?殴り合いの凄い喧嘩があったっていうから、わたし心配で…」
「……俺の顔、よく見てみろよ 傷一つないだろ あいつと喧嘩したら何発かは喰らう」
 まぁ、俺が勝つけどね。と真司は言って、るりの頭を撫でた。
「うぅ…心配したんだから……もう…最近2人の様子、おかしかったし わたしへの態度も変だったから……本当に心配してたんだから……」
「わかったから泣くなって こんなところで泣いてたら俺が泣かしたみたいじゃんか」
「うう…うう…」
 結局、その休み時間中るりが泣き止むことはなかった。真司はその間、ずっとるりの頭を撫でていた。

15
 2時限目、3時限目、4時限目と、真司は授業に集中できずにいた。といってもずっと自習だったので、集中する必要はあまりないのだが。
「俺はあそこでるりの頭を撫でてやる資格なんてなかったのに…」
 日曜日の殴り合いの大喧嘩。それは確かに存在した。顔の傷が無くても、真司の心は確かにそれを覚えていた。
 負けたほうが、るりから手を引く。どちらが言い出したのかは定かではないが、そのたった一つのルールに従って真剣勝負をした。
 真司は携帯を開く。新着メール1件。

   Frm 前橋 Sub RE:
    あぁ、遅刻だよ。悪いけど担任に伝えておいてくれ。よろしくな。
「なんだ?このメール?」
 真司が送ったメールに返信しているような文面だ。しかし…
「…俺はこんなメール送った覚えねぇぞ……」
 真司の送信ボックスには身に覚えのない前橋へのメールがあった。

   To 前橋 Sub 件名なし
     遅刻?
 昨日の今日だ。真司がこんな普通のメールを送る筈がなかった。
「わけわからねぇ…」
 そして5限目、違和感と共に有利が登校してきた。


16
「おはよう」
 そういって有利は真司の肩を叩く。
「浮かない顔してるな」
「いつものこと」
「それもそうか」
 昨日のことを無かったことにするかのような態度だ。
「今日のメール あれ、なんだよ?」
「何だ、ってお前のメールに返信しただけだろ」
「まぁ、そうなんだけどね…」
「そういえば魔法は使えるようになったのか?今日は朝から大変な騒ぎなんだろ?」
「あぁ、そうみたいだな…どうでもいいだろ」
「どうでもいいとはなんだよ そうか…お前魔法使えないんだな」
「………」
「図星か 気にするなよ 今は俺も使えないしな…」
「………」
「なぁ、今日の帰り、どこか寄って行かないか?やることなくてな…」
「…うるせぇ」
「あ?」
「馴れ馴れしいんだよ、てめぇは……昨日の今日でよくそんな態度取れるな…」
「昨日の今日?何のことだ?」
 真司の線が、切れた。有利の胸ぐらを掴む。
「てめぇ!!ふざけんな!!忘れたとでも言うつもりか!?無かったことにするつもりかよ!!」
「落ち着けって……」
「これが落ち着いてなんていられるか…っざけんな!!お前がそんな態度を取ってくるとは思わなかったよ!!」
「なんのことだか、さっぱりわからない」
 一方、有利は落ち着いている。何が彼をそこまで平気にさせるのか、真司には全くわからなかった。
「ちっ…胸糞悪ぃ…」
 そう吐き捨てて、鞄を持って教室から出て行った。

17
 真司はそれから公園に行った。高崎公園だ。昨日、日曜日確かに本気の殴り合いをした場所に。
 そこには午前中と同様、全くと言っていいほど人がいなかった。
 いるのは桃色の髪の女だけ。
「よく来た。渋川真司」
 体操着を来た謎の女が口を開く。彼女はキリシマミヤマと名乗った。
「霧島宮間?苗字みたいな名前だね…てゆーか何で俺の名前を知ってる?」
「うちはなんでも知っている。
「もちろん君の名前も。
「君の好きな人も。
「日曜日にここで何があったのかも。
「前橋有利の変り様の原因も。」
 ミヤマは達観した様子で真司をみている。
 真司は負けじとミヤマを睨む。
「…ほう、いい目だ。
「おもしろい。
「教えてやろう。前橋有利の変り様の原因をな
「月曜日、奴らは前橋有利の膨大な魔力を使ってあることをした。
「そのあることは今は言わないが、そこで副産物が2つ出た。
「副産物と言っていいのかはわからないがな。
「1つは紋章。
「あぁ、霧島さんマジぱねぇ!と言ってもいいのだぞ!紋章とかマジファンタジー!!
「とにかく8つの紋章が出現した。
「まぁ、今はそれは置いておいて。
「もう1つの副産物。これは微々たるものだけどな。
「それは世界改変。
「前橋有利の魔力を媒体として使っているのだからおかしくはないことだ。
「なに?話がみえない?
「要約すると、日曜日の寝る前に前橋有利にとって一番、都合の悪かったものを改変したということだ。
「そう、お前と有利の大喧嘩だよ。
「2人の傷を消したんだ。あいつは。
「そして何事もなかったように日常に戻そうとした。」
「でも…俺は」
「前橋有利の思った以上に、お前の傷は大きかったということだよ。
「女々しい話だがな。
「面白い話でもある。体の傷は治せても、心の傷は癒えなかった、と。
「お前、どんだけ片品るりのことが好きなんだよ。」
「なっ…」
 真司の顔が真っ赤になる。しかし、それは照れてのことではなかった。自分がるりのことが好きなのは、大好きなのは重々自覚していた。これは怒りの火炎だ。
「霧島、じゃあお前、手は貸してくれるんだろうな」
「手?あぁ改変のこと?
「あんなのはただの副産物の副産物、おまけのおまけみたいなものだ。
「一発ぶん殴れば、目は覚める。」
「OK 理解したよ じゃああいつの、前橋の殴り方を教えてくれ 話聞く限りじゃ相当強いみたいじゃねぇか」
「そうだねみっちり特訓してあげるよ。
「あと、これやるよ。
「炎の紋章。
「これ持っていれば2日目の有利と互角かそれ以上の魔力を得ることができるぞ。
「一発殴って、そこからリベンジマッチといこうぜ。」
「おう!!」

18
 怒りの火炎は炎の紋章を手元に加え、さらに燃え上っていた。しかし、それは決して黒い炎ではなかった。友人、有利と真の決着をつけるため激しく燃えていた。
 真っ直ぐな炎が行きつく先は悪の道だなんて、ありえない!!


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