Napping of Woog

詩論(3)詩の始まり

詩の始まり


 後期旧石器時代のHSSの知能は現代人の14才以上だと言われている。
平均身長は178cm。男性は主に狩猟をしていたため
がっちりとした体格をしていた。
このころから、男性と女性の分業が始まり--いわゆるジェンダーの始まり--
女性は育児、果実などの採集を主に行った。

 彼らは、神話によく出て来る楽園に住んでいたとも言える。
1日の労働時間は3, 4時間で、自由時間が大いにあった。
階級もなく、社会のメンバーが同じ精神生活を営めたのである。
彼らがどのような言葉をしゃべっていたかは、永遠の謎かもしれない。
ただ、語彙が200語しかないのに、
日常会話に必要な概念をすべて表現できる言語が現在存在する、
という事実から推測すれば、
彼らが少なくとも200語以上の単語を使っていたであろう。
暇な時彼らは何をしゃべっていただろうか。
現代の我々と大きな差があったとは思われない。
自由時間は彼らの個性化を促し、
言葉そのものに興味を示す者もいたはずである。
言葉の快感や喜びが洗練されていった。
また、言葉と自分の感情や思考との乖離を感じ、
言葉をあまり信用しない者もいたであろう。

 人間の歴史上の思春期とも言えるこの時期には、
我々の予想もつかない言葉の進歩があったであろう。
言葉は漸進せず、急激に発達するものである。
人間の脳に文法がインプットされたのもこの時期に違いない。

 単なるおしゃべりのみから言葉が洗練されていくのではない。
厳しい自然環境があった。
HSSはヴュルム氷河期と言われる、
10万年前から始まり1万年前に終結した氷河期の中で多様な生活を経験した。
1年じゅう地面が凍っているときもあった。
言葉を持ち、自己の客観化が進んだ彼らは苦痛や死が現実となる以前から、
それらを恐れ始めた。
神話が生まれ、宗教儀式が始まる。
彼らが作った数々の像や洞窟画がそれを物語っている。
安らかなる生への願いが祈りとなり、頼るべき大きな存在を生み出し、
生け贄の動物を捧げる儀式である供犠が行われた。 

 30人から150人規模の集団で行動していた彼らが一堂に会し、
日常生活とは大いに異なる、聖化された場所と時間の中で
捕獲した動物を殺し、肉が配分され、参加者全員がそれを食べた。
この儀式の詳細も、もちろん明らかではない。
古代に実際行われていた儀式から推測することしか出来ないのが残念である。
この儀式を司った者が、聖化された言葉で祈りを捧げた。
儀式が日常語と、いわば宗教用語との差別化を促し、
言葉の快感や喜びに新たな一面が加わった。
これこそ詩の始まりであった。
言葉の快感や喜びが厳粛な祈りの中で忘れ去られた可能性も大いにある。

 言葉は、以上述べたように宗教へと、
芸術へと新たなる道を辿り始めるのではあるが、
後期旧石器時代のHSSは文字を持たなかった。


(後書き)

 ということで、言葉を論じるのに言葉足らずなもんで、苦労しています。
それにめげず、ズーズーしく、次は文字について概観してみようと
考えています。現代の日本を早く出せ、と言われそうです。
自分でもそう思っています。
でも、今の日本には宗教も稀薄だし自由時間もないし、どうしましょ。
第4部 は「文字の始まりとギルガメッシュ」を取り上げます。


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