こしゃくな読書

こしゃくな読書

国語入試問題必勝法 (講談社文庫) [文庫] 清水 義範 (著)


清水 義範 (著)
http://www.amazon.co.jp/dp/4061847740/ref=nosim/?tag=donzoko-22





 ことの始まりは、サイズが合わなくなっていた頂き物の

唯一のブランド物。


出勤途中の自宅の最寄り駅で気付いた。上着がない。

駅から自宅まで探しながら戻った。無い。



自宅について、もう諦めなければ遅刻すると気づいた私は、

別の上着を持って再び駅に向かったのである。

初めての始業ぎりぎりの出勤となった。



 よく考えてみれば、あれは師範の通夜の前に、

自分の見栄を笑い飛ばすために起きたのだ。

何シーズンも処分できなかった見栄を、笑って捨てることが出来た。

シリアスからパロディへの転換地点だった。



 そして翌日。

師範の告別式が終わって善心道空手の仲間たちと、

会場近くの蕎麦屋に入った。

ビールが出てくるまでに20分。

1人前づつの蕎麦のセットが出てくるのに15分づつ。

あまりの空腹におかわりのビールを頼んだら


「今、蕎麦を優先でやってますから」

と、どうやら、10人分の蕎麦が出てこないと、

ビールのおかわりもできないらしい。



しばらくしたら、

「ごめんなさい。かつ丼のカツ、焦がしちゃったから、

揚げ直しますから、もう少し…」

というのには、一同爆笑であった。

つまり、ビールもますます出てこないのである。



 そして、なんとか皆、蕎麦とビールを得て、店を出ようとしたら、

今度は仲間の一人が「財布が無い」。

誰一人腹を立てるものはいない。しばし待つ。

面白がっているうちに荷物の底の底から出てきた。



 外に出ると店主が追いかけてきた。

「すみません。こんなに混んだの初めてなもんで、

お待たせしちゃって…」

「いや〜!おいしかったです!ごちそうさまでした!」

そんな挨拶を交わして、私たちは歩き始めた。



 私は誇らしかった。

師範、自分の機嫌は自分で取れるやつらばかりですよ。



師範の好きだった笑顔のある風景が

稽古場だけではなく、日常となっている。

仲間たちは、いいネタを提供されたとしか思っていないはずだ。



 日常をパロディにしてしまうには、

しょうもない見栄や怒りなど不要である。




入試問題を解くにも、深読みすれば罠にはまるだけなのである。


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: