本日は久々にトレンクルを持って、奈良県大宇陀の榛原まで出掛けて来ました。目的地は橡媛 (とちひめ)
吉隠陵である。
調べてみると、98年10月24日に此処を訪れている。それ以来だから、13年ぶりということになる。
橡媛というのは志貴皇子の妃であり、志貴皇子との間の子が白壁王で、光仁天皇となっているから、天皇の母ということになる。志貴皇子が春日宮天皇と追尊されたように、彼女も皇太后を追尊されている。光仁天皇の息子が桓武天皇であるから、桓武の祖母でもある。紀橡媛と言われるように紀氏出身の女性である。
近鉄大阪線榛原駅の西北西、国道165号線で1.5kmほど初瀬方向に戻った吉隠の山中(宇陀市角柄の国木山)に彼女の墓とされている吉隠陵がある。
今回、此処を再訪するのは橡媛が目当てではなく、天武天皇皇女の但馬皇女なのである。彼女は吉隠の猪養の岡に葬られたのであるが、その墓が何処であるのかが分っていない。橡媛陵のある国木山辺りが猪養の岡であると言われている。勿論異説があって、もっと北の方だとする説もある。しかし、橡媛のものであれ御陵があるので、雰囲気的には此処がその猪養の岡を偲ぶには恰好の場所なのである。という訳でやって来た次第。
で、何故、但馬皇女なのかというと、来年早々の若草読書会でする万葉の
お話の題材に但馬皇女と穂積皇子の恋を取り上げようかと思っているので、その取材(笑)という訳であります。
(橡媛陵への道)
国道165号線を榛原から登り切って初瀬方向に少し下った道路右脇に、写真下のような石仏がある。この手前に山側へと入る道(写真上)がある。これを行くと橡媛の吉隠陵である。

道は直ぐに山道となる。杉の林の中を行く。風に木々がざわめき、軋む音が頭上を走って行く。枝がぶつかり合って折れてもいるのか、時々パキッと乾いた音がする。やがて道であるのか何であるのか分らない様相になって来る。下の写真の如くである。

13年ぶりとあって記憶もアヤフヤ。辛き山道を登れど登れど辿り着かない。ひょっとすると何処かで道を迷ったかと不安に思いつつ、もう少し登ってみようとしたのが正解で、少し道も広くなり、漸くにして道標に出会う。

見覚えのある石階段が見えました。延々とある階段。自転車は階段の途中で停めて登ることとする。


(下の階段) (振り返ると・・)
時々、風花が舞う。足元の草には少し雪も消え残っている。
さて、但馬皇女であるが、彼女は天武天皇と氷上娘の間に生まれた皇女であるが、10歳前後の頃に母の氷上が亡くなってしまい、異母兄の高市皇子に引き取られ、面倒をみて貰っていたようだ。万葉集に残る彼女の歌から高市皇子の妻であったとする説もあるが、確かなことは分らない。
もし高市の妻であったのであれば、穂積皇子との恋は許されない恋ということになる。


(中ほどの階段) (上の階段)
彼女の歌というのは以下の通りであるが、その歌から万葉きっての情熱的な女性と見られている。
秋の田の 穂向きの寄れる 片寄りに
君に寄りなな
言痛
かりとも
(巻2-114)
(秋の田の稲穂が一方に靡いているように、私もひたすらあの方に寄り添いたい。どんなに人々がうるさく噂しようとも。)
おくれゐて 恋ひつつあらずは 追ひ
及
かむ
道の
隈廻
に
標
結
へ
吾背
(巻2-115)
(後にのこって恋しく思い続けていないで、後を追って行って追いつきたいのです。道の曲がり角にしるしを付けて置いて下さい。あなた。)
人言
を しげみ
言痛
み おのが世に いまだ渡らぬ 朝川渡る
(巻2-116)
(人の噂がはげしく煩わしいので、これまでの人生で渡ったことのなかった朝の川を渡ることです。)
彼女は和銅元年(708年)6月に亡くなり、その年の冬に穂積皇子が悲しんで作った歌がこれ。
ふる雪は あはにな降りそ
吉隠
の
猪養
の岡の 寒からまくに
(巻2-203)
(今降っている雪は、たくさんは降らないでほしい。 <但馬皇女の眠る>
吉隠の猪養の岡が寒いだろうから。)
(注)穂積皇子は天武天皇と蘇我大?娘との間の子。但馬皇女にとっては異母兄となる。後に大伴坂上郎女を妻にしている。

(
橡媛
陵<春日宮天皇妃
吉隠
陵>)
下山して、再び国道165号線に戻り、初瀬方向へと坂を下る。国道に沿って処々旧道があるので、可能な限り旧道を走る。伊勢街道である。
(角柄付近)

(伊勢街道の石標)
「右いせ」と書かれたこの道標には「文化4年」の銘が刻してある。文化4年は西暦では1807年である。第11代将軍家斉の時代ですな。
(吉隠の山・国道165号線吉隠バス停付近から)
上の穂積皇子の歌は、上の写真のような景色に雪を添えてみると似合うかも知れませんな。
この後、長谷寺前経由、大神神社、桜井駅まで銀輪散歩いたしますが、それは明日のこととして、本日はここまで。
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