偐万葉田舎家持歌集

偐万葉田舎家持歌集

2011.12.27
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カテゴリ: 銀輪万葉

​(承前)​

 十二柱神社のある出雲地区を出て、旧道を西へ。白山神社の鳥居の前に出る。この神社は鳥居から社殿までの間を国道165号線が横切っているので、車の往来の途切れるのを待って道路を渡る。小さな神社であるが、雄略天皇の万葉歌碑が境内にある。

048白山神社.JPG ​(白山神社)​

044雄略天皇万葉歌碑.JPG
​(雄略天皇万葉歌碑)​

 これは、言わずと知れた万葉集第1巻冒頭の歌である。

 籠 (  こ ) もよ み ( ) 持ち ふくしもよ みぶくし持ち この丘に 菜摘ま
 す兒 家聞かな 名 ( )
らさね そらみつ やまとの国は おしな
 べて 
( われ ) こそをれ しきなべて  ( われ ) こそませ 我こそは  ( ) らめ 
 家をも名をも                       (巻1-1)

 雄略天皇御製の歌となっているが、勿論雄略天皇の歌ではなく、庶民がこのような歌を口ずさみながら春の野で労働したのでもあろう。民謡ですな。古代に於ける男の代表格が雄略天皇であり、この歌の主人公を雄略にすることで人々に伝誦されて行ったのでしょう。
 同様の伝説又はこの歌を踏まえて作られたと見られる歌が万葉集巻13の3310~3313の歌であり、これも舞台は泊瀬(長谷)である。
 男(長谷のすめろぎ)が女に妻問いし、「早く戸を開けよ。夜が明けてしまう。」と呼びかけるのに対し、女は「出て行きたいけれど奥には母が、外側には父が寝ていて、気付かれてしまうから出て行けない。」と嘆く。これなども歌垣での男女の掛け合いや宴の座興として人々の口に上った歌なのであろう。
 まあ、何れにせよ「万葉の雄略さん」は春野で乙女に求婚したり、雪や雨をものともせず女の家に押しかけて断られるという、なかなかに愉快な人物ではある。
 この歌のように、男女の相聞歌は、必ず男から歌を贈り、女が婉曲に又はキッパリと否定・拒否しつつ、少しの含みを持たせた歌で切り返す、という構造になっているようだ。
 一度は断るというのが習慣・礼儀なら、断られても再度求婚するというのも亦男の礼儀というものであったのですな。一発回答でOKする女とか、断られても何度もしつこく付きまとうストーカー男などというものが未だ存在しなかった頃のお話です(笑)。


​(万葉集發耀讃仰碑)     (雄略天皇泊瀬朝倉宮伝承地)​

 雄略天皇が営んだ朝倉宮がこの白山神社のある桜井市上岩坂だとするのが保田與重郎氏の見解(上磐坂説)にて、上の讃仰碑と雄略万葉歌碑とが此処に建立されているのはこれに基づくのでありますな。
 もう一方の説は、もう少し東側の同市黒崎天ノ森だとするもの(天ノ森説)。天ノ森の方は、山陰の狭隘地で宮趾としては不適であるとの批判があるようだが、昔訪ねた時、丘の高みに立てられていた木製の朝倉宮伝承地碑は、今はどうなっているのでしょう。

 白山神社を出て、また国道を走る。朝倉小学校前の万葉歌碑を目指す。

050朝倉付近.JPG
​(朝倉付近)​

 上は、朝倉小学校を少し西へ行った国道165号線沿いから撮った景色であるが、まあ、こんな感じの場所に朝倉の宮があり、岡辺で雄略さんが乙女に「名告らさね」と言っていたと想像していただけばよろしい(笑)。
 さて、小学校前の万葉歌碑はこれである。ちょっと写真のピントが甘かったようです。

049巻3-428万葉歌碑.JPG
​(朝倉小学校通用門前の柿本人麻呂万葉歌碑)​

​​ ​   土形娘子 (      ひぢかたのをとめ ) 泊瀬 ( はつせ ) の山に 火葬 ( やきはふ ) ​りし時、柿本朝臣人麻呂の作れる歌1首​​​

隠口 ( こもりく ) の  泊瀬 ( はつせ ) の山の 山のまに いさよふ雲は 妹にかもあらむ (巻3-428)

 万葉人は、人が死ぬと、千の風になるのではなく、山のまにいさよふ雲になると考えたようでありますな。上の写真でも山の際にいさよふ雲を写して置きましたが、人麻呂がこの雲を見て亡き妻のことを思ったと想像していただければ幸いであります。

 近鉄大和朝倉駅を過ぎて少し西へ行った辺りで左折南へ進路を取る。大神神社とは逆方向になるのであるが、泊瀬川を写真に撮って置こうという行動であります。

052泊瀬川(大和川)・朝倉付近.JPG ​(泊瀬川<大和川>)​

 泊瀬川というのは、大和川の上流、初瀬の谷から三輪山を廻って流れる辺りの名称にて、国土交通省的には全て「大和川」ですな。

053三輪山・南側から.JPG ​(三輪山)​

 泊瀬川を南へ渡ったついでに南側から三輪山の全容を写真に収めようと、近鉄線を越えて撮影スポットを探していたら、こんな眺めの場所を見つけました。最近完成したバイパスが南側からの景観を少し損ねてしまっていますな。
 それをカットすると下のような写真になりますが、肉眼では嫌でも目に入ってしまうのであります(笑)。

053三輪山・南側から (2).JPG (同上)

三輪山を 今は見せなむ たなびける 雲も隠さず 冬日の照れば
                                    (偐家持)
三輪山を しかも隠すか 雲だにも こころあらなむ 隠さふべしや
                          (額田王 万葉集巻1-18)

  再び進路を北に取り、大神神社を目指す。

055大神神社.JPG ​(大神神社鳥居)​

 大神神社は既にお正月を迎える準備が完了。鳥居の前には大きな松飾りが出来上がっていました。自転車を駐輪場に停めて、砂利石をサクサク踏みながら拝殿へと向かう。

055大神神社 (2).JPG ​(大神神社拝殿)​


​(巳の神杉)​

 三輪の神杉と言えば、日本書紀のヤマトトトヒモモソヒメの話を想起しますが、その記述は2009年2月28日の日記「 山辺の道 」に引用していますので、そちらをご参照下さい。

062三輪山・西側から.JPG
​(三輪山とその北に続く穴師山、弓月が嶽など竜王山へと続く山並)​

 国道沿いの大鳥居に出る手前の駐車場付近で振り返ると、三輪山とそれに続く山並みが一望できる。この山沿いに天理・奈良へと続く古代の道が「山辺の道」であるが、今は辿らない、桜井駅へと引き返す。
 駅前でトレンクルをたたみ、バッグ(袋)にしまい込んで近鉄電車で家路です。
 「道のまにいさよふ」(笑)銀輪散歩に、今回もお付き合い下さり、有難うございました。
​<関連記事> ふる雪はあはにな降りそ・・  2011.12.25.
         山も誓ひも深き谷川        2011.12.26.​

<追記・注>
万葉集發耀讃仰碑 」などタテ長写真4枚 が横倒しになった歪んだ画像になってしまっていたので、2020年10月31日これらを復元修正しました。

過去記事の写真が歪んでいたりすること ​  2020.10.12.






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最終更新日  2020.10.31 11:55:45
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