偐万葉田舎家持歌集

偐万葉田舎家持歌集

2012.09.17
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カテゴリ: 万葉

 大伴家持には3人の母がいたことになる。
 産みの母親、丹比郎女。養母、大伴郎女。大伴郎女亡き後、家持を養育し、義理の母ともなる坂上郎女。この3人である。
中でも、坂上郎女は家持の歌作りのお師匠さんとも言える存在であり、少年家持に大きな影響を与えたと推測される。
坂上郎女は大伴安麻呂と石川内命婦との間の娘。
石川内命婦は先妻の巨勢郎女(巨勢比等の娘)が亡くなった後に、安麻呂の後妻となったものと思われる。
安麻呂と先妻の巨勢郎女との間には、長男・旅人(田人か)、次男・田主、三男・宿奈麻呂が生まれている。従って、坂上郎女は旅人の異母妹になる。
 旅人と丹比郎女との間に生れたのが家持であるから、坂上郎女は家持の叔母に当ることになる。
坂上郎女は最初、穂積皇子の妻となり、穂積皇子の死後、一時は(養老年間<717年~723年>)藤原麻呂の妻となった可能性もあるが、正室ではなかったろう。その後(養老末年頃)、異母兄の大伴宿奈麻呂(旅人の同母弟)の妻となり、坂上大嬢、二嬢の二人の娘を産んでいる。宿奈麻呂も早くに亡くなる(神亀4年<727年>頃)ので、坂上郎女は夫運には恵まれなかったと言う他ない。
坂上大嬢は家持の妻となるので、家持にとっては、義母でもある。
家持の実母の丹比郎女は大伴家には入らず、家持は大伴家に引き取られ、旅人の正妻の大伴郎女が育てることとなるが、家持11歳の時に亡くなり、以後は坂上郎女が母親代りとなって家持の面倒を見たものと思われる。
 実母の丹比郎女は、家持が64歳の時に母の喪に服していることから、この時まで存命であったものと見られる。(家持の年齢は養老2年<718年>生誕説に基づく数え年で表示している。)

 坂上郎女の歌や歌碑は当ブログにも何度か登場しているが、下記に歌碑の写真を再掲載して置きます。

元興寺塔跡 (2).JPG (元興寺塔跡の傍らにある歌碑  2011.7.31.

故郷 ( ふるさと ) の 明日香はあれど あをによし

平城 ( なら ) 飛鳥 ( あすか ) を みらくしよしも (万葉集巻6-992)

高畑の道・万葉歌碑.JPG (奈良高畑の道の辺にある歌碑  2009.5.19.

猟高 (  かりたか ) の 高円山を 高みかも
         出で来る月の 遅く照るらむ (巻6-981)

坂上郎女歌碑・犬養万葉歌碑.JPG
(佐保川畔にある歌碑  2009.5.3.

うちのぼる 佐保の川原の 青柳は 今は春へと なりにけるかも
                            (万葉集巻8-1433)

坂上郎女歌碑 (2).JPG
(奈良市一条通りにある歌碑  2009.4.20. ) 

吾背子が 見らむ佐保道の 青柳を
       手折りてだにも 見しめてもがも (万葉集巻8-1432)

坂上郎女の歌碑.jpg (佐保川畔にある歌碑)

月立ちて ただ三日月の  眉根 ( まよね ) 掻き
( ) 長く恋ひし 君に逢へるかも (万葉集巻6-993)

 <参考> 田原本から桜井・忍坂へ銀輪散歩(その2) 2012.4.30.

 さて、もう1首。
 下の歌は天平7年(735年)の作であるから、家持は18歳。
夫の宿奈麻呂は既に亡くなっている。また、一時は夫婦関係にあった藤原麻呂が天然痘で死亡するのは、天平9年7月であるから、未だ存命であったことになる。
この頃には、母である、大伴家の大刀自・石川内命婦に代って、実質的に大伴家の家内を取り仕切っていたのかも知れない。

     七年乙亥、大伴坂上郎女、尼 裡願 ( りぐわに ) 死去 ( みまか ) りしを 悲嘆 ( なげ ) きて
      作れる歌1首並びに短歌

たくづのの 新羅の国ゆ  人言 ( ひとごと ) を よしと聞こして 問ひ ( ) くる  親族 ( うから ) 兄弟 ( はらから )  無き国に 渡り来まして 大君の しきます国に うち日さす  ( みやこ ) しみみに 里家は  ( さは ) にあれども いかさまに 思ひけめかも つれもなき 佐保の山辺に 泣く兒なす 慕ひ来まして しきたへの  ( いへ ) をも造り あらたまの 年の緒長く 住まひつつ いまししものを 生ける者 死ぬとふことに  ( まぬ ) れぬ ものにしあれば たのめりし 人のことごと 草まくら 旅なるほどに 佐保河を 朝川渡り 春日野を  背向 ( そがひ ) に見つつ あしひきの 山辺を指して  ( ゆふ ) やみと  ( かく ) りましぬれ 言はむすべ せむすべ知らに たもとほり ただひとりして 白たへの 衣手 ( ) さず 嘆きつつ わが泣く涙 有間山 雲ゐたなびき 雨にふりきや 
                                     (万葉集巻3-460)

  反歌

( とど ) め得ぬ  ( いのち ) にしあれば しきたへの 家ゆは出でて  雲隠 ( くもがく ) りにき
                                  (同巻3-461)

  右は、新羅國の尼、名を裡願といへり。遠く 王徳 ( おほきみのみうつくしび ) ( かま ) けて
聖朝 ( みかど ) 帰化 ( まゐ ) きぬ。時に大納言大将軍大伴卿の家に 寄住 ( ) み、既に

   数紀 ( あまたのとし ) を経たり。ここに天平七年乙亥を ( もち ) て、忽に 運病 ( いたづき ) に沈み、

   ( はやく ) 泉界 ( よみのさかひ ) に趣く。ここに 大家 ( おほとじ ) 石川命婦、 餌薬 ( にやく ) の事に依りて有

  間の 温泉 ( ) に往きて、この ( ) に会はず。ただ郎女独り留りて 屍柩 ( ひつぎ )

  葬ること既に ( をは ) りぬ。よりてこの歌を作りて温泉に 贈入 ( おく ) れりき。






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最終更新日  2014.04.20 20:56:01
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