偐万葉田舎家持歌集

偐万葉田舎家持歌集

2012.09.22
XML
カテゴリ: 銀輪万葉

承前

  御香宮神社の続きです。

  書き忘れていたが、この神社の祭神は、 神功皇后、仲哀天皇、応神天皇であります。

  この神社に湧き出る水、「御香水」は伏見七名水の一つとされている。伏見の名水は伏見の酒造りを支えて来たのであってみれば、今の伏見があるのは、これら名水のお陰と言うものであろう。
  本殿脇で竹樋から流れ出している水をペットボトルに汲んでいる若い女性が居られました。話し掛けると、コーヒーなどをこの水で入れると味が全然違う、と仰る。小生も柄杓に掬って一口呑んでみたが、どう違うのかは分らない(笑)。

038御香水碑(V.2012_09_19__09_54_19).jpg (御香水碑)

  この碑の前に古い井戸があるが、今は使われてはいないようだ。

036伏見の戦跡碑 (2).JPG (伏見の戦の碑)

   明治元年(1868年)の鳥羽伏見の戦いでは、官軍(薩摩藩)の屯所が此処に置かれた。神社の南方向200m位に伏見奉行所があり、幕府方(新撰組)はそこに陣を構えた。この至近の距離で砲弾が行き交ったのでも あるか。
  幸いに神社は戦火を免れ、焼失することはなかったという。

036伏見の戦跡碑.JPG

  話は変るが、神社の駐車場脇に、乃木希典の詩碑が建っていた。

041乃木希典詩碑(V.2012_09_19__09_55_18).jpg (乃木希典詩碑)

  凱旋有感
 王帥百万征強虜 王帥百万強虜を征す
 野戦攻城屍作山 野戦攻城
( しかばね ) 山を作す
 愧我何顔看父老 
( ) づ我何の ( かんばせ ) あって父老を ( )
 凱歌今日幾人還 凱歌今日
幾人 ( いくにん ) か還る

  戦争には勝ったものの多くの将兵を死なせてしまった乃木希典の悲傷と苦悩と自責の念が滲み出ている詩である。
  論理的人間と情緒的人間があるとすれば、乃木は間違いなく情緒的人間の方であろう。そして我々日本人は論理的人間よりも情緒的人間の方を、「人間らしい」と愛するもののようである。

  さて、御香宮神社を後にし、大手筋通りを挟んで南側にあったという伏見奉行所跡に向かう。しかし、一つ手前で団地の中に入ってしまったので、目指す石碑が見つからない。再び広い道路に出て道脇に居た男性に碑の在り処を尋ねるがご存じではなかった。娘さんがこの近くに嫁いで来られていて、今日は遊びに来たのだとのこと。納得。暫し世間話をして出発。今度は簡単に見つかりました。

042伏見奉行所跡碑.JPG (伏見奉行所跡碑)

  伏見奉行所跡は、その後、陸軍工兵第16大隊敷地となり、二次大戦後は駐留軍の駐屯地となり、現在は桃陵市営住宅地となっている。奉行所跡碑と向き合うように、陸軍工兵第16大隊跡地の石碑もあった。
  奉行所跡碑の前の道を真っ直ぐ南に進むと、程なく宇治川に出会う。伏見の戦いでは敗走する幕府方を追って官軍は宇治川方向へと進攻したのでもあるか。

043宇治川.JPG (宇治川。観月橋が見える上流側。)

  道は宇治川の土手で行き止まり。土手に上ってみると、京阪観月橋駅前に架かる観月橋と近鉄京都線の鉄橋に挟まれた地点でありました。

043宇治川 (2).JPG (宇治川。近鉄線鉄橋がある下流側。)

  宇治川で、先ず思い浮かぶ万葉歌はこれ。

もののふの  八十氏河 ( やそうぢがは ) の  網代木 ( あじろぎ ) に いさよふ波の  行方 ( ゆくへ ) 知らずも
                      (柿本人麻呂 万葉集巻3-264)

(訳)朝廷に仕える官人たちの多くの氏人たち、そのウジではないが、
   宇治川
の網代木によってさえぎられただよっている波はどこへ行
   くのか、その
行く先が分らないことだ。

(注)もののふの八十=宇治川にかかる序詞。「もののふ」は朝廷に仕え
           る文武
官人をいう。その氏族は数が多いので、
           宇治川のウヂ
と氏族のウヂを掛けて序詞として
           いる。
   網代木=「網代」は「網の代り」の意。杭を川の中に打ち立て、杭の
       間
に竹で編んだ簀を置き、魚を捕る仕掛け。
いさよふ=停滞する、の意。

  人麻呂が近江国を通って上京する際に、宇治川の畔で詠んだ歌であるが、無常観を詠んだ歌とする説と波の様子を詠んだだけとする説がある。人麻呂の近江荒都歌とも通じ、壬申の乱で散った多くの人たちのことも「もののふの八十」という言葉使いに込められていると見るべきでもあろうから、単に景観を描写したのではなく、無常観とまではいかなくても、無常の思いを感じつつ詠んだものであろう。

  小倉百人一首では、この歌ですな。

朝ぼらけ 宇治の川霧 たえだえに
          あらはれわたる 瀬々の網代木
(藤原定頼 千載集419 小倉百人一首64)
(訳)夜明け方、宇治川のあたりいっぱいに立ち込めていた川霧が、や
   がてと
ぎれとぎれとなり、川瀬のあちこちにある網代木がずうっと一
   面に見え
て来たことである。

  宇治川の万葉歌をもっとご紹介したいのですが、字数制限です。続きは次回とします。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2014.04.20 20:15:07
コメント(4) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

プロフィール

けん家持

けん家持

キーワードサーチ

▼キーワード検索

カレンダー

コメント新着

けん家持@ 龍の森さんへ New!   >寒課題 内筋強化 日常継続    味…
けん家持 @ ひろみちゃん8021さんへ New!   >一歩一歩と良くなられるのを    …
龍の森 @ Re:激リハビリ開始、祝大工さん来訪(11/13) New! 寒課題 内筋強化 日常継続 味覚障害 一歩…
ひろみちゃん8021 @ Re:自宅療養記・リハビリ開始&大工さん来訪(11/13) こんばんは(^^) 一歩一歩と 良くなられ…
けん家持 @ MoMo太郎009さんへ   >味覚がおかしくても、ちょっこちょ…
MoMo太郎009 @ Re:自宅療養記・食べることの気持ち悪さ(11/12) 味覚がおかしくても、ちょっこちょっこと…
けん家持 @ ageonoyasaiさんへ   >毎日ブログを拝見していて味覚障害…
ageonoyasai@ Re:自宅療養記・食べることの気持ち悪さ(11/12) 毎日 ブログを拝見していて 味覚障害と食…

お気に入りブログ

竹遊びその後 New! ふろう閑人さん

美味しくて嬉しい頂… New! ひろみちゃん8021さん

恥をかく寸前 New! ビッグジョン7777さん

東京タワー New! 七詩さん

キャラメルアイス New! ☆もも☆どんぶらこ☆さん

外出先で 黄色比べ… New! 龍の森さん

思い出の佐賀へ(その… New! MoMo太郎009さん

大手門 から 竹橋… lavien10さん

吉松隆 大河ドラマ … くまんパパさん

晴のち曇ブログ fusan2002さん

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: