偐万葉田舎家持歌集

偐万葉田舎家持歌集

2013.06.30
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カテゴリ: 近隣散歩

承前

  昨日の記事は芭蕉の句で終りましたが、その句「菊の香にくらがり登る節句かな」はひょっとすると下のような棚田の風景を眺めながら、道の辺や畔に咲く菊の花を見つつの句であったかも知れません。
  この棚田風景は犬養万葉歌碑から少し坂を下った処での写真です。

暗峠の棚田
(峠の棚田)

  芭蕉は元禄7年(1694年)9月9日、重陽の節句の日に奈良から暗峠越えで大坂に入りますが、彼はこの後、病に臥し亡くなりますから、この暗越えが言わば最後の旅となるという次第。
  この時に奈良で作っている彼の句で菊を詠んだものに、下記の句があります。
菊の香や な良には 古き仏達 (笈日記・杉風宛書簡)
  菊の香や ならは幾代の 男ぶり (杉風宛書簡)
  菊に出て な良と難波は 宵月夜 (笈日記)

  梅が「花の兄」と呼ばれるのに対し、菊は一年の最後に咲く花という意味で「花の弟」とも呼ばれる。
  しかし、今は未だ6月。兄は去り、弟は未だ姿を現さず、道の辺に見掛けたるは、古代中国四大美女の一人、西施ならぬ合歓の花でありました。

合歓 (2) (合歓)

  合歓の花は万葉にも登場するが、芭蕉の次の一句は有名。

象潟や 雨に西施が ねぶの花 (奥の細道)

合歓 (同上)

吾妹子が 形見の合歓木は 花のみに
             咲きてけだしく 実にならじかも
                  (大伴家持 万葉集巻8-1463) 

  美女・西施は生きたまま皮袋に入れられて長江に遺棄されるというむごい最後を迎えているが、合歓の花も柄の付いたまま、未だ凋みもしない花が地面に落ちているのをよく見掛ける。鳥がついばむのか、風や雨で花の柄が折れるのか。
  花は何やらなまめかしいものを感じさせるが、実の方は、マメ科の木にてもあれば、何ともむさくるしく実用的とでも形容するしかない形姿である。大伴家持さんに申し上げたきことは、実になってもどうかという花もありますよ、ということですかな(笑)。

藤尾町阿弥陀如来像 (3) (藤尾町阿弥陀如来立像)

  ラッキーガーデンへの分岐道から少し下った処に石仏がある。

藤尾町阿弥陀如来像 (同上)

藤尾町阿弥陀如来像 (2) (同上説明板)

  坂を下り切ると龍田川、そして近鉄南生駒駅である。振り返ると越えて来た生駒山が遠くに見えている。防人歌を真似て詠むなら、

龍田川 うち出でて見れば 神さぶる
        生駒高嶺に 雲ぞたなびく (偐家持)

でありますかな。

龍田川と生駒山 (龍田川と生駒山)

近鉄南生駒駅付近から生駒山を望む (同上)

近鉄南生駒駅 (近鉄生駒線・南生駒駅)

近鉄南生駒駅南側踏切から国道308号線へ (南生駒駅南側の踏切。道は国道308号線である。)

  暗峠奈良街道(国道308号線)は、大阪側の登り口から矢田丘陵を越えるまでは、概ねこのような、対向車とのすれ違いにも支障をきたす細い道であり、国道という名に誤魔化されてはいけないのである。
  この踏切の一つ北側の踏切を渡った処にある造り酒屋・菊司醸造さんの前に阿波野青畝の句碑がありました。この酒屋さん(駒井家)と青畝とは親戚だと副碑に記載されている。句碑は昭和59年9月9日建立とある。ここでも重陽の節句(菊の節句)でありますな。

阿波野青畝句碑 (2) (阿波野青畝句碑)

和を以って 貴ぶために 菊の酒 (青畝)

矢田丘陵 (矢田丘陵)

  大阪側から奈良へ行くには、生駒山を越えて、更に矢田丘陵を越えなくてはならない。しかし、この日のヤカモチは不調・注意散漫、大瀬中学の先の南生駒変電所の前で左折して矢田丘陵に向かわなければならないのに、何か他のことを考えてもいたか、既に矢田丘陵を越えたような錯覚があって、そのまま直進して坂を下ってしまいました。気が付けば萩の台の団地の中。何のことはない、折角上った坂であったのに、再び龍田川のレベルまで下りて来てしまったという次第。再度下って来た道を引き返し国道308号線の処まで戻り矢田丘陵へと向かったのであるが、時刻を見ると既に3時45分。これでは、奈良まで行って引き返していると、暗峠まで戻って来る頃には「くらがり」になっているやも知れぬ。という訳で、奈良は次の機会にと諦めて引返すことにした次第。

紫陽花 (紫陽花)

  行きにはパスした大瀬中学の校門前の万葉歌碑を見て行くことにする。
  これも犬養先生揮毫の歌碑である。
  歌はまたしても前ページで取り上げた秦間満の歌でありました。

犬養万葉歌碑 (大瀬中学校前の犬養万葉歌碑。背後の山は生駒山。)

由布佐礼婆 比具良之伎奈久 伊故麻山
             古延弖曽安我久流 伊毛我目乎保里
夕されば ひぐらし来鳴く 生駒山
             越えてぞ吾が来る 妹が目を欲り
                  (秦間満 万葉集巻15-3589)

犬養万葉歌碑 (2) (同上)

  復路は、往路と逆。奈良側からが上りとなり、大阪側が下りとなる。
  奈良側の上りでも漕ぐのを諦めて途中から押して上っていると、後からMTBの青年が自転車に乗ったままやって来た。「頑張るねえ。」と声を掛けると笑顔で「まあ、歩いているのと変らない速度ですけどね。」と彼。確かに小生が少し早足で上ると彼の方が後ろになるという具合だから、これはもう自転車乗りの「意地」で乗っている、というようなものだが、その意地を通せる処が素晴らしい(笑)。
  そんな彼に携帯電話の着信。彼が通話している間に小生はどんどん先へ。
  途中にプラムが熟れ始めている木や小さな実をつけているザクロの木などを写真に撮りながら進む。
  暗峠の喫茶店「友遊由」にてコーヒーブレイクしようとしたら、漸く彼が追い付いて来た。彼はそのまま峠の方へ。大阪へと帰って行ったのでしょう。
  小生も20分ばかり喫茶店で時間を過ごした後、峠から一気に大阪側への下り坂を駆け下りました。

プラム (プラム)

ザクロ (2) (ザクロ)

紫陽花 (3) (紫陽花)

  締め括りの花は、やはりこの時期は紫陽花ですかな。
  上のプラム、ザクロ、アジサイは全て暗峠への奈良側の上り坂で見掛けたもの。ではこれにて直越えの道銀輪散歩完結です。今回もお付き合い下さり有難うございました。






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最終更新日  2013.07.01 18:42:36
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